君の声

 春。
 高校を卒業した俺たちは、それぞれ違う大学へ進んだ。会う時間は減った。でも、好きだという気持ちは何も変わらない。そう思っていた。
 お互い一人暮らしを始めたこともあり、連絡はほぼ毎日取り合っていた。朝は「おはよう」のメッセージから始まり、その日にあった出来事を送り合う。夜になれば、どちらからともなく電話をかけるのが当たり前。
 今日あった面白い話。授業で失敗したこと。サークルのこと。他愛もない話をして、「おやすみ」と電話を切る。そんな時間が、一日の終わりの楽しみで特別だった。
 休日になれば会って、ご飯を食べて、街を歩く。
 高校の頃より会う回数は減っても、俺は少しも不安なんて感じていなかった。
 大学生活は思っていたより忙しかった。友達に誘われて入ったイベント企画のサークルでは学園祭や地域イベントの企画・運営に携わり、人と一つのものを作り上げる面白さに夢中になった。高校の先輩に誘われたバスケのサークルにも顔を出すようになり、気づけば学内のあちこちで声をかけられるようになっていた。
 それでも、もっと詩織と出かけたいと思った。誕生日やクリスマスには喜んでもらえるプレゼントを贈りたかった。大学生になったら高校生の頃には行けなかった場所にも連れて行きたかった。そのために始めたのがアルバイトだった。
『最近、忙しそうだね』
 日課の夜の電話で詩織が少し心配そうに聞いてきたことがある。
「んーそうだなぁ…でも今だけだよ。今のうちに少し貯めときたくてさ」
 笑ってそう答えると、詩織は少しだけ間を空けてから、「そっか」と優しく笑ってくれた。
「おう。なぁ今週末どこ行きたい?」
 俺はその笑顔に安心してしまった。忙しくても毎日連絡を取っている。会える日はちゃんと会っている。詩織なら分かってくれる。俺たちは、何があっても大丈夫だと信じていた。
 ——あの頃の俺は、その「そっか」に隠れていた本当の気持ちに、まるで気づいていなかった。