君の声


 会計を済ませ、店の前で藤川と別れた。会社の駐車場に停めてあった車に乗り込む。エンジンをかけ、車を走らせる。アクセルを踏み込んだ瞬間、自分でも驚くほど強くアクセルを踏んでいた。
 藤川の言葉が、頭から離れない。
 『あの笑顔を守ってあげてほしい』
 信号で車を止め、小さく息を吐く。
「……なんであんたに言われなきゃいけないんだよ」
 思わず吐き出した声は、自分でも驚くほど苛立っていた。
 
 あの時、電話に出たのはあいつだった。
 もし、あの電話が詩織に繋がっていたら。
 俺たちは、もう一度ちゃんと話せていたかもしれない。
 
 そう考えると、今さら何を言われても素直に受け入れられるはずがなかった。
 なのに——。
 あの頃の詩織のことを、俺よりも知っている。
 別れたあと、どんな顔をしていたのかも。
 俺の知らないところで、何を思っていたのかも。
 
 それを聞かされて、悔しかった。
 腹が立った。
 俺にとって詩織がどれだけ大切だったか、知らないくせに。
 
 それでも、ひとつだけ分かったことがある。
 
 詩織は、ようやく笑えるようになった。
 俺の知らない時間を超えて、今ここにいる。
 だったら——。
 
 詩織の笑顔を守りたい。もう二度と、あの笑顔を曇らせたくない。
 それは、初めて彼女を愛した日からずっと思っていたことだった。
 俺はこのまま詩織の傍にいていいのだろうか———