「……酒が入っていたこともあったと思います。僕はすぐに履歴を消し、戻ってきた白石に何も告げなかった。
……考えました、何度も。あの時、僕が電話に出なければ、白石がちゃんとあなたと話せていたら、二人はやり直していたかもしれない。白石はまた前みたいに笑っていたかもしれない。」
俯く藤川に、樹は言いようのない怒りが込み上げてくる。あの電話がきちん詩織に繋がっていたら、自分たちはこんなに遠回りしなくてもよかったんじゃないか。
樹は藤川の表情を見つめる。
(この人、ずっと後悔してたんだな)
そう感じてしまって、怒鳴る気にもなれない。
「——詩織は、このことを知らないんですよね?」
樹はぽつりと尋ねた。
「はい。」
「……なら、この先も言わないでください。」
藤川の目が驚きで見開かれる。
「……どうしてですか。」
「確かに、あの時あなたが電話に出なければ、俺たちはやり直せていたかもしれない。でも、それはもう誰にも分からないことです。彼女は何も知らないまま生きてきたんです。だったらそのままでいい。彼女に……詩織に背負わせることじゃない。」
藤川はしばらく樹を見つめていた。
「……やっぱり、あなたはそう言うんですね。」
小さく苦笑すると、コーヒーカップに視線を落とす。
「だから、もう一つだけ話させてください。」
樹は黙って頷いた。
「事故のあと、白石はよく言ってました。」
『事故の前のことは思い出したはずなのに。』
『どうしても、何か大切なものだけが抜け落ちてる気がするんです。』
「そのたびに、自分がおかしいんじゃないかって苦しんでいました。」
藤川は静かに続ける。
「事故のあとも、僕が卒業するまでの短い間は、何度かそう口にしていました。卒業してからも、共通の友人伝いに元気にやっているらしい、と聞いていました。だから昨日、白石の笑顔を見たときようやく乗り越えられたんだなって思ったんです。だから……。」
一度言葉を切る。
「佐野さん。お願いです。あの笑顔だけは守ってあげてほしい。」
そう言って藤川は頭を下げた。樹は何も言わなかった……言えなかったが正しかったかもしれない。
……考えました、何度も。あの時、僕が電話に出なければ、白石がちゃんとあなたと話せていたら、二人はやり直していたかもしれない。白石はまた前みたいに笑っていたかもしれない。」
俯く藤川に、樹は言いようのない怒りが込み上げてくる。あの電話がきちん詩織に繋がっていたら、自分たちはこんなに遠回りしなくてもよかったんじゃないか。
樹は藤川の表情を見つめる。
(この人、ずっと後悔してたんだな)
そう感じてしまって、怒鳴る気にもなれない。
「——詩織は、このことを知らないんですよね?」
樹はぽつりと尋ねた。
「はい。」
「……なら、この先も言わないでください。」
藤川の目が驚きで見開かれる。
「……どうしてですか。」
「確かに、あの時あなたが電話に出なければ、俺たちはやり直せていたかもしれない。でも、それはもう誰にも分からないことです。彼女は何も知らないまま生きてきたんです。だったらそのままでいい。彼女に……詩織に背負わせることじゃない。」
藤川はしばらく樹を見つめていた。
「……やっぱり、あなたはそう言うんですね。」
小さく苦笑すると、コーヒーカップに視線を落とす。
「だから、もう一つだけ話させてください。」
樹は黙って頷いた。
「事故のあと、白石はよく言ってました。」
『事故の前のことは思い出したはずなのに。』
『どうしても、何か大切なものだけが抜け落ちてる気がするんです。』
「そのたびに、自分がおかしいんじゃないかって苦しんでいました。」
藤川は静かに続ける。
「事故のあとも、僕が卒業するまでの短い間は、何度かそう口にしていました。卒業してからも、共通の友人伝いに元気にやっているらしい、と聞いていました。だから昨日、白石の笑顔を見たときようやく乗り越えられたんだなって思ったんです。だから……。」
一度言葉を切る。
「佐野さん。お願いです。あの笑顔だけは守ってあげてほしい。」
そう言って藤川は頭を下げた。樹は何も言わなかった……言えなかったが正しかったかもしれない。
