君の声

 ◇
 
 取材当日。
「佐野さん、取材の方がお見えです」
「今行きます」
 受付スタッフからの連絡を受け、樹は応接室へ向かう。
「失礼します。」
 ドアを開けて中に入ると、ソファから立ち上がった男と目が合う。
「……先日は失礼しました」
 その声に樹は僅かに首を傾げる。
「この前、白石と一緒にいた方ですよね。」
「え?……あぁ」
 樹もそこで思い出したように表情を和らげる。
「担当の藤川さんというのは、あなただったんですね。」
 映画を観た帰りに詩織の家の近くで偶然会った、詩織の大学の先輩——藤川。まさか仕事で顔を合わせるとは思ってもいなかった。樹は人当たりのいい笑顔を浮かべ、名刺を差し出しす。
「改めまして、イベントのチーフプロデューサーを務めています、佐野です」
「株式会社カルチャープレス、webメディア『Scene+』編集部の藤川です。本日はよろしくお願いいたします。」
 名刺を交換すると、二人は向かい合ってソファに腰を下ろした。こうして、水族館イベントの取材が始まった。
「まず、今回のイベントのコンセプトを教えてください。」
「『記憶の海』です。子どもの頃、水族館で感じたわくわくを、大人になった今もう一度思い出してもらいたい。そんな思いで企画しました」
「SNSでもかなり話題になっていますね。」
「ありがたいですね。でも、最後まで安全に終えることが一番だと考えてますので」
「音響や演出の評価も高いようですが」
「今回は制作会社の皆さんに本当に助けてもらってます」
 インタビューは45分ほど続いた。イベントに込めた想い。制作現場での苦労。チームで作り上げることの難しさと面白さ。藤川は時折頷きながら質問を重ね、樹も飾らない言葉で一つひとつ答えていく。