君の声

 ◇

 映画が終わり、人波に沿って映画館を出る。しばらく二人とも言葉を発さなかった。余韻が包む心地いい沈黙。
「……よかった」
 樹がぽつりと呟いた。詩織も静かに頷く。少しずつお互いに感想を零し合う。
「あのシーン、よかったですね」
「俺は、あのセリフがよかった」
「あそこのセリフも私、好きです」
「あのシーン、映像だとそう見せるのかって思ったな」
 不意に零れた樹の言葉に詩織はふふと小さく笑う。
「佐野さんらしい感想ですね」
「そう?」
 首を傾げる樹に詩織は笑顔を浮かべた。照れて少し視線を外した樹はちらりと時計を確認した。
「そろそろ昼だけど、どうする?」
「本当ですね。佐野さん、何が食べたいです?」
 詩織の問いかけに樹は胸の中で小さく驚く。一緒に食べるという選択肢が詩織の中にあるということが嬉しかった。
「……そうだなぁ」
「もし決まってないなら、おすすめのパスタ屋さんがあるんですけど、そこ行きませんか?」
「パスタか。いいね、ぜひ」
「はい!」
 笑って言えば、詩織も嬉しそうに答えた。詩織の案内で向かう洋食屋はショッピングモールの建物の中にあった。店員に案内され席につく。
「よく来るの?」
「友達とたまに。でもここのパスタ、本当に美味しいので佐野さんに食べてもらいなって思って」
「それは楽しみだ」
 樹はメニューをめくる。そこには美味しそうな写真が並んでいる。少し悩んで詩織がおすすめしてくれたパスタを注文した。
「佐野さんって、素直ですよね」
「そうかな」
「……だって、おすすめしたらすんなり聞いてくれたじゃないですか」
「それは、白石さんがおすすめするなら間違いないなって」
「なんですか、それ」
 二人で顔を見合わせて笑う。
「そういえば、佐野さんって映画を見ても演出に目が行くんですね」
「仕事柄かな。ちゃんと内容にも入り込んでるんだけど、なんかそっちも気になる」
「実は私も、音楽の方が気になる時があって」
「見方が変わるよね。だから感想を聞くのが楽しい」
 樹がそう言うと同時に注文したパスタが運ばれてきた。パスタを頬張る樹をどこか不安げに詩織が見つめる。
「……うっま」
「よかったです」
 詩織の顔に笑顔が浮かんだ。

「美味しかった。」
「気に入って貰えてよかったです。」
 店を出た二人はレストラン街を抜け、ショッピングモール内を歩く。通りがかったゲームセンターの入口で詩織がふと足を止めた。
「……かわいい」
 視線の先にはイルカのぬいぐるみが景品のUFOキャッチャー。
「寄ってみる?」
「……私こういうの苦手なんです。何回やっても取れなくて」
 少し残念そうに首を振る詩織を樹は「いいから、行ってみよう」と促した。機械に1回分のコインをいれると軽快な音楽が鳴り始める。樹は真剣な目をしてキャッチャーとぬいぐるみの位置を確認する。樹に操作されたキャッチャーは軽快な音にのり、ぬいぐるみ目掛けて降りていく。そのままぬいぐるみを掴み持ち上げた。そのままガシャンと、取り出し口にぬいぐるみが吸い込まれていく。
「嘘……佐野さんすごい!!」
 詩織が子どもの様にはしゃぎ声をあげた。取り出し口からぬいぐるみを取り出し、少し形を整えると詩織に差し出す。
「え、いいんですか?」
「もちろん。」
「ありがとうございます!」
 ぬいぐるみを受け取った詩織はとても大事そうに抱え込んだ。樹はその姿を見て僅かに口元を緩めた。