それから数日が過ぎた。
水族館のイベントは予想以上の反響で、連日多くの来場者で賑わっていた。初日に起きたトラブルも、その後は細かな調整が入り、運営は驚くほど安定している。夜空を映していた映像も、イルカショーの進行も、音響も。今は決められた流れに沿って、問題なく回っていた。
「佐野さん、昨日までの来場者数まとめました」
「ありがとう」
資料を受け取ると樹は軽く目を通す。スポンサー向けの報告書、館長との打ち合わせ、追加取材の対応。イベント運営とは別のチーフプロデューサーの仕事はまだ山ほど残っていた。
スタッフルームの扉が開き、無意識に顔を上げる。
「お疲れ様です!」
入ってきたのは広瀬だった。
「先輩いた」
「……なんだ広瀬か」
「なんだって何ですか!?」
樹は気にも留めていない顔で資料へ視線を戻した。けれど数秒後、小さく眉を寄せる。
……いや、何やってんだ俺。
詩織は初日の立ち合いだけだった。翌日、トラブル確認のために顔を出したくらい。音響も映像も、もう問題なく回っている。他の音響スタッフが常駐しているし、来る理由なんて、ない。
そう思ったところで机の上に置いていたスマートフォンが震えた。視線だけを落とす。表示された名前を見た瞬間、思考が止まった。
『白石:お疲れ様です。』
『あの、少し聞きたいことがあるんですけど』
気づけば、さっきまでより少しだけ口元が緩んでいた。
『佐野:どうした?』
送ってから数秒。すぐに既読がつく。
『白石:あ』
『早い』
『佐野:失礼だな』
『白石:仕事中じゃないんですか?』
『佐野:仕事中』
『白石:仕事してください』
思わず笑いそうになって、樹は片手で口元を押さえる。
「……先輩?」
広瀬が不思議そうな顔で見ていた。
「いや、なんでもない」
そう言いながら視線をスマートフォンへ戻す。
『佐野:で、聞きたいことって?』
少しだけ間が空く。届いたメッセージに、樹は一瞬固まった。
『白石:佐野さんって、甘いもの好きですか?』
「……は?」
思わず声が漏れた。
『白石:あっ』
『違います』
『いや違わないんですけど』
『今日会社で差し入れもらったんです』
『一人だと多くて』
『もし嫌いじゃなかったらどうかなって』
数秒、画面を見つめたまま動けなかった。そのあと小さく息を吐く。
……会う理由なんて、ないと思っていたのに。
『佐野:甘いの平気』
送信してから少し考える。それから続けて打った。
『佐野:カフェオレの人に言われたら断れない』
水族館のイベントは予想以上の反響で、連日多くの来場者で賑わっていた。初日に起きたトラブルも、その後は細かな調整が入り、運営は驚くほど安定している。夜空を映していた映像も、イルカショーの進行も、音響も。今は決められた流れに沿って、問題なく回っていた。
「佐野さん、昨日までの来場者数まとめました」
「ありがとう」
資料を受け取ると樹は軽く目を通す。スポンサー向けの報告書、館長との打ち合わせ、追加取材の対応。イベント運営とは別のチーフプロデューサーの仕事はまだ山ほど残っていた。
スタッフルームの扉が開き、無意識に顔を上げる。
「お疲れ様です!」
入ってきたのは広瀬だった。
「先輩いた」
「……なんだ広瀬か」
「なんだって何ですか!?」
樹は気にも留めていない顔で資料へ視線を戻した。けれど数秒後、小さく眉を寄せる。
……いや、何やってんだ俺。
詩織は初日の立ち合いだけだった。翌日、トラブル確認のために顔を出したくらい。音響も映像も、もう問題なく回っている。他の音響スタッフが常駐しているし、来る理由なんて、ない。
そう思ったところで机の上に置いていたスマートフォンが震えた。視線だけを落とす。表示された名前を見た瞬間、思考が止まった。
『白石:お疲れ様です。』
『あの、少し聞きたいことがあるんですけど』
気づけば、さっきまでより少しだけ口元が緩んでいた。
『佐野:どうした?』
送ってから数秒。すぐに既読がつく。
『白石:あ』
『早い』
『佐野:失礼だな』
『白石:仕事中じゃないんですか?』
『佐野:仕事中』
『白石:仕事してください』
思わず笑いそうになって、樹は片手で口元を押さえる。
「……先輩?」
広瀬が不思議そうな顔で見ていた。
「いや、なんでもない」
そう言いながら視線をスマートフォンへ戻す。
『佐野:で、聞きたいことって?』
少しだけ間が空く。届いたメッセージに、樹は一瞬固まった。
『白石:佐野さんって、甘いもの好きですか?』
「……は?」
思わず声が漏れた。
『白石:あっ』
『違います』
『いや違わないんですけど』
『今日会社で差し入れもらったんです』
『一人だと多くて』
『もし嫌いじゃなかったらどうかなって』
数秒、画面を見つめたまま動けなかった。そのあと小さく息を吐く。
……会う理由なんて、ないと思っていたのに。
『佐野:甘いの平気』
送信してから少し考える。それから続けて打った。
『佐野:カフェオレの人に言われたら断れない』
