君の声

「ん?どういたしまして。——じゃあ早速詰めようか」
 資料をひらひらさせて樹は言った。詩織は頷いて樹とともに資料を覗き込む。変更点の詳細、それに伴う会場の変更点を二人で擦り合わせた。
 
 それからはあっという間だった。変更になった進行を確認して。新しく組み直された導線を歩く。資料に赤字を書き込んでは修正していく。
「白石さん、その導線だとお客さん詰まるかも」
「あ、本当だ……!」
「だから言っただろ」
「うぅ……」
 気づけば、そんなやりとりも増えていた。忙しいはずなのに、不思議と前みたいな気まずさはなかった。
『——できないなら、頼ればいい』
 思い出せないのに、その言葉だけは胸の奥に残っていた。
 そして気づけばイベント前日になっていた。水族館の入り口には大きなポスターが掲げられ、館内には準備を終えたスタッフたちが慌ただしく行き交っている。
「いよいよ明日か」
 隣で樹が小さく呟いた。その横顔を見て、詩織は足を止めた。
(佐野さん……)
 どうしてだろう。最近、前より少しだけ。この人のことが気になってしまう。