君の声

 眩しい日差しだった。
 青空の下に響く、弾むような笑い声。
『ほら、パス!』
 聞こえた声に振り向く。
 コートを走る後ろ姿。
 風に揺れるシャツ。
 誰かが振り返った——気がした。
「……っ」
 詩織は小さく息を呑んだ。次の瞬間、視界が揺れる。
 気づけば目の前には、大きな水槽が広がっていた。ゆったりと魚が泳ぐ、水族館の静かな通路。
 ほんの一瞬だったはずなのに、胸だけが妙に騒がしい。
(今の……何?)
 夢じゃない。でも、ただの見間違いとも思えなかった。思い出そうとした、その瞬間だった。
『詩織』
 優しく名前を呼ぶ声がする。オレンジに染まる放送室。
 マイクの前に座る私。その向かい側。
 穏やかに、柔らかく微笑むあなたは——
「っ……!」
 頭の奥に鋭い痛みが走った。反射的に額を押さえる。
「いた……」
 もう治ったはずなのに、事故の傷が疼いた気がした。西日に照らされて、顔だけが見えない。なのに、なぜか懐かしい。
(……貴方は誰?)
 ぼんやり残るその人へ、心の中で問いかける。けれど答えは返ってこない。胸の奥だけが、静かにざわめいていた。