君の声

 間を置いてから続ける。
「だから気にしなくていい」
 その言葉は優しかったが、どこか決意の形をしていた。詩織は何も言えず、ただ小さく頷いた。
「本当に、大丈夫なんですか」
 いつの間にか出てきた広瀬も不安げに問う。
「大丈夫じゃないかもしれない」
 正直な言葉だった。詩織が息をのむ。だが、樹はそのまま続けた。
「でも、間違ってるとも思ってない」
 その一言で、空気が少しだけ変わった。その時だった。再び樹のスマートフォンが鳴る。今度は制作部ではない。上層部の番号だった。樹は一瞬だけ詩織を見てから、通話に出る。
「佐野です」
『佐野くん、今少しいいか』
 落ち着いた声だったが、有無を言わせない重さがあった。
『ナレーションの件、話は上がってきている。スポンサー側がかなり敏感になっているようだ』
 樹は目を細める。
「はい」
『正式に確認したい。今回の判断、チーフプロデューサーとしての独断か?』
 少しの間。空調の音がやけに遠く感じた。樹は一度だけ息を吸う。
「はい。現場判断です」
 即答だった。詩織の指が握る力をわずかに強める。通話の向こうで、息を吐く音がした。
『……わかった。状況は把握した。だが、スポンサー説明は必要になる。最悪、差し戻しも視野に入れておいてくれ』
「承知しています」
 通話が切れる。静寂。今度はさっきよりも重い。詩織が口を開く。
「……やっぱり、戻すことになるんじゃ」
「戻さない」
 樹は即答した。迷いはなかった。
「戻すつもりでやってない」
 その言葉に詩織が息をのむ。樹はスマートフォンをポケットに戻し、まっすぐ詩織を見る。
「これから説明は全部俺がやる」