君の声

 三カ月後。
「詩織、急いで!遅れる」
「あ、ちょっと待ってよ樹!」
 朝、二人は身支度もそこそこに慌てている。
「急いでるなら送ってくれなくてもいいのに」
「それはダメ。」
 少し不服そうに零す詩織に樹は即答する。
「変な奴に絡まれたら困る」
「ありえないから」
 笑う詩織の手を握る。
「俺が嫌なの。……行ける?」
 呆れたように笑いながら握られた手を詩織はしっかり握り返して頷く。その薬指にはお揃いの指輪が光っている。
「よし、じゃあ」
「行ってきます」
 二人が微笑み合って言うと玄関の扉が閉まる。
 部屋のリビングには結婚式の写真が二人を見送っていた。
 玄関の隣には、並んだ二つのスーツケース。
 明日も、きっと二人で。
 
  
 詩織を泣かせたあの日。
 もう隣に立つ資格はないと思った。
 
 時が流れて、遠回りをして、もう一度出会った。
 
 過ぎた月日も、すれ違った時間も、なかった事にはできない。
 けれど失った時間があったからこそ、今隣にいることが幸せだと思える。
 
 これから先、どんなことが待っているのかは分からない。
 きっと、楽しいことばかりじゃない。
 それでも。
 隣に詩織がいるなら、なんだっていい。
 遠回りした二人の物語は、ここで終わりじゃない。
 きっとこれからも、二人で歩いていく。