君の声


 食事を終えた後、ソファに座って樹は書類と向き合っていた。後片付けを終えた詩織も隣に座る。
「どうするかなぁ」
「招待客?」
「そう。誰を呼ぶか迷ってて」
 樹はリストを眺める。
「京平、拓馬、綾ちゃんは絶対だろ?」
「そうだね」
「古賀っちとか?」
「うん、いいと思う」
「会社は社長と中原さん。広瀬は……呼ばないとうるさいな。」
「仕事のお付き合いじゃなくて、樹が来てほしい人を呼べばいいんじゃない?」
 その一言に、樹はペンを止めた。
「……そうだな。」
「お祝いしてほしい人を呼ぼう。」
「うん。」
 詩織の言葉に樹の手が動き出す。
「詩織は?呼びたい人いる?」
 樹の問いかけに詩織は少し考える。
「綾以外の友達と仕事関係かな」
「そっか」
 詩織が笑う。つられて樹も笑った。


 閉館後の静かな時間。
 大水槽の前、それぞれが選んだタキシードとドレスに身を包んだ二人は微笑み合っている。
 カメラマンのその奥で、館長がにこやかに見守っていた。
「白石さん、メイク直し入ります」
 詩織から離れた樹の元へ館長がやってくる。
「佐野さん」
「館長。今日はお時間いただいてありがとうございます」
 樹は頭を下げる。
「お二人のためなら、喜んで協力しますよ。」
「ありがとうございます」
「白石さん、綺麗ですね」
 館長は詩織を見つめる。館長につられるように樹も詩織へ視線を向ける。
「佐野さんも、よく似合ってらっしゃる。」
「……恥ずかしいですね」
 照れくさそうに言えば、いやいやと館長が笑う。
「お二人ともとてもよくお似合いです。ご結婚、おめでとうございます。」
 とびきり優しい館長の笑顔と言葉に樹は胸が熱くなる。樹は小さな息をつく。
「……ありがとうございます」

 ある夜。
「やっぱり入場はこの曲がいいな」
「ここ、数秒だけどうにかならないかな」
 二人で進行表とパソコンを覗き込む。
「できると思う。ここで一回フェード入れて……」
「うん、それなら自然かも。」
 詩織が頷き、樹がマウスを動かす。
「こういうの、仕事と変わらないね。」
「結婚式まで仕事みたいになってるな。」
 二人で顔を見合わせて笑う。
「でも、楽しい」
「ん?」
「樹と、こうやって決めるの」
 詩織は嬉しそうに笑う。
「……俺も」
 樹は画面に視線を戻しながら、少しだけ笑った。

 ある休日。
 二人は式場の打ち合わせに来ていた。
「では、当日の進行について確認していきますね」
 プランナーが進行表を広げる。
「入場はこちらの曲で……」
「ここ、少しだけ間を取れますか?」
「この照明、曲の入りに合わせた方が綺麗かも」
 二人がほとんど同時に口を開く。
 プランナーが少し驚いたように二人を見た。
「……お二人とも、詳しいですね」
「仕事柄、つい。」
 樹と詩織は顔を見合わせて笑った。

 一週間前。
「以上となります。よろしいですか?」
「はい」
 プランナーの声に二人は頷く。
「……もうすぐだね」
「だな」
「緊張してきた」
 笑う詩織の頭を樹が撫でる。
「大丈夫。……たぶん俺の方が緊張するから」
 二人のやりとりをプランナーが微笑ましく見つめている。
「みなさん、緊張されてますよ。」
「そういうものですか?」
「はい。お二人ならきっと、大丈夫ですよ。」
 プランナーの笑顔に二人は照れくさそうに笑った。