君の声


 桜の舞う頃。遠回りした二人は、今日永遠に結ばれる


 柔らかい光がカーテンの隙間から差し込む。
 樹はコーヒーを片手に眩しさに目を細めた。
 隣に詩織はいない。それでも、樹は少しだけ微笑んだ。

 半年前——

 休日。
「緊張する?」
 車を降りた詩織が隣を歩く樹を見上げる。
「……なんか、仕事で会場入るのとは違う。」
 目の前には結婚式場。ガラス張りのエントランスに映る二人の姿を見て、樹は少しだけ照れくさそうに笑った。
「本日はよろしくお願いいたします。」
 スタッフに案内され、まず通されたのはチャペルだった。
 ゆっくり扉が開く。
 白を基調とした空間に、柔らかな陽の光が差し込む。真っすぐ伸びるバージンロードの先には、小さな祭壇。その向こうの大きなガラス窓からは青い海が広がっている。その静けさに、二人は自然と言葉を失った。
「……綺麗。」
 詩織が小さく呟く。樹は返事をしない。
「樹?」
「……うん。」
「チャペル見て」
 くすっと笑う詩織に、樹は我に返ったように苦笑する。
「いや……。」
「何?」
「詩織が歩いてるところ、想像してたんだ」
 その一言に、今度は詩織が照れたように俯いた。
「もう……。」
 スタッフは微笑みながら少し離れた場所で二人を見守っている。
 チャペルの見学を終え、披露宴会場や料理の試食を回る。
「美味しい。」
「これ好きそう。」
 そんな他愛ない会話を交わしながら歩く時間は、まるでいつものデートのようだった。
 最後にプランナーが一冊の資料を開く。
「ご希望の日程ですと、桜が見頃のこの日が空いております。」
 樹は詩織を見る。詩織も静かに樹を見つめ、小さく頷いた。
「……ここにしようか。」
「うん。」
 二人は顔を見合わせて笑う。
「では、ご予約を承ります。」
 プランナーの言葉に、樹はもう一度詩織を見る。
「お願いします。」
 その一言で、まだ先だと思っていた結婚式が、少しだけ現実になった。