君の声

「古賀っち、散々からかってくれたな」
「からかわれちゃったね」
 二人は手を繋いで一緒に過ごした教室を回る。
「あ、放送室」
 詩織の足が止まる。
「ここで樹が好きって言ってくれたよね」
「あの時は言うつもりなかったんだけどな」
 樹は苦笑する。
 その時、廊下の向こうから生徒たちの話し声が聞こえてきた。
「ねぇ、進路決めた?」
「まだ。でも、やりたいことはある」
「へぇ、例えば?」
「去年行った水族館のイベントで聞いたナレーションがすごくよくて。私もあんなふうに、声で誰かの心を動かせる人になりたい」
 二人は思わず足を止める。
 何気ない会話を交わしながら、生徒たちは二人に気づくことなく通り過ぎていく。
「……」
 詩織は小さく息をのんだ。
「詩織。」
 樹がそっと名前を呼ぶ。
「……嬉しい」
 それだけ言うと、詩織は少しだけ目を潤ませて笑った。樹は何も言わず、そっと詩織の肩を抱き寄せる。
「ちゃんと、届いてたんだね」
 詩織の小さな呟きに、樹は静かに頷いた。再び手を繋ぎ、二人はゆっくり校内を歩く。
「懐かしいね」
「毎日ここ歩いてたんだよな」
 窓の外ではグラウンドを走る部員たちの声が響く。あの頃と変わらない夏の景色に、自然と笑みがこぼれた。