樹の家を出て二人は登下校でよく一緒に歩いた道を手を繋いで歩く。少しだけ変わった景色に懐かしくなる。
「……みんな優しくてよかった」
「昔から詩織のこと好きだったから。特に姉貴」
「ふふ、嬉しいな」
「別れたって知られたときはすっげぇ怒られた」
「そうなの?」
「なんであんないい子手放すんだーって」
「……なんか想像できるかも」
「理由話せば、余計に泣いて怒られた。しばらく口きいてくれなかったんだよな」
遠い目をして言った樹は視線を詩織に向ける。
「今度泣かしたら俺まじでやばいかも」
おどけて笑う。
「……泣かせるの?」
「泣かせない」
樹は迷うことなく即答した。詩織は笑う。
気づけば二人が通った高校へたどり着いた。夏休みに入った校内は静かで、グラウンドからは運動部の掛け声だけが響いている。
「懐かしいね」
フェンス越しに校舎を眺めながら詩織が小さく呟く。
「10年か」
樹も校舎を見上げる。毎日当たり前のように通っていた場所なのに、今ではどこか遠い景色のようだった。
「……佐野?」
不意に声がした。
二人が振り向くと、ジャージ姿の男性が校舎の方から歩いてくる。
「古賀先生?」
「お久しぶりです」
樹が思わず笑う。
「やっぱり佐野か。隣は……白石だな」
古賀は二人を見比べると、思わず笑った。
「何年ぶりだ?……って、それより」
一瞬視線が繋がれた手に向く。
「お前ら、まだ続いてたのか」
「はい。」
樹が照れくさそうに笑う。
「高校生の恋愛なんて三か月もすりゃ終わると思ってたんだけどな」
「先生、それ失礼。」
「いや、珍しいんだって」
古賀は肩をすくめると、今度は詩織を見た。
「白石。」
「はい。」
「佐野のどこがいいんだ?」
「は!?」
樹がすかさず声をあげる。「確かに顔はいいかもしれんが」なんて古賀は呟く。
詩織は吹き出しそうになるのを堪えながら、小さく笑った。
「全部です」
一瞬、空気が止まる。
「……は?」
固まる古賀の横で、樹も思わず詩織を見る。
「樹の全部が好きです」
照れながらも、詩織ははっきりと言った。
「……お前、それ本人の前で言うか」
古賀は呆れたように笑う。
一方の樹は耳まで真っ赤だった。
「ほら、佐野が固まったぞ」
笑っていた古賀の視線が、ふと詩織の左手に向く。薬指に光る指輪を見つけると古賀の表情がふっと和らいだ。
「……そうか。」
古賀はゆっくり頷いた。
「ついにか」
「……はい」
「おめでとう。」
恩師の祝福に二人は照れくさそうに笑みを浮かべる。
「当時の奴らが聞いたら発狂ものだな」
古賀はからかうように笑う。
「外から眺めてるだけじゃもったいないだろ」
古賀は校門へ歩きながら振り返る。
「少し見ていくか?」
「え、いいんですか?」
「俺がいるから大丈夫だ」
笑ってそう言うと、古賀は校門を開けた。
「ただし、部活の邪魔だけはするなよ」
「はい。」
二人は顔を見合わせ、小さく笑ってから校門をくぐった。
