君の声

 詩織の家を出て今度は樹の実家に向かう。
「……うるさかったでしょ」
「いや。相変わらず詩織のお母さん、いいキャラしてるよね」
「もう、ほんとやめてほしい」
 詩織が心底嫌そうに呟く。
「……でも認めてもらえて安心した」
 樹が言えば詩織も「そうだね」と笑う。ちょうどその時、樹の実家に着く。
「次は私の番だね」
「詩織なら大丈夫。」
 少し緊張した表情の詩織の頭を樹はふわっと撫でた。
「ただいま。」
「あ!詩織ちゃん!!」
 奥から駆け寄ってきたのは樹の姉・楓だった。勢いよく詩織に抱きつく。
「久しぶりーーー!!」
「あ。おい、姉貴!」
「わっ、お、お久しぶりです」
「ねぇ、また可愛くなってない?もうまじ天使!」
「なんで、姉貴がいんだよ!!」
 姉を詩織から引き剥がしながら樹が叫ぶ。
「樹が彼女連れて帰って来るって言ったら飛んで帰ってきたのよ」
 奥から母親が顔を出す。
「詩織ちゃん、いらっしゃい。いきなりごめんなさいね」
「お久しぶりです。」
「でも本当、綺麗になったわね。ここじゃなんだから上がってちょうだい」
 母親に促され、姉に手を引かれて詩織は中へ入る。その後ろを樹が着いて行く。
(……これ、逆じゃね?)
 姉の背中に疑問符を投げつけたくなった。
「お、詩織ちゃん。久しぶりだな」
 リビングでは新聞から顔を上げた父親が詩織を見て笑顔を見せる。
「お久しぶりです」
「うんうん。綺麗になった」
「親父、それ以上は言うな」
 鋭く樹が睨む。
「……男の独占欲は醜いぞ」
「うるせぇ。詩織は俺のだ」
 そっと抱き寄せた樹に姉から野次が飛ぶ。
「父さん、母さん。改めて、紹介させてほしい。白石詩織さん、俺が結婚したい相手」
「よろしくお願いします」
 緊張した面持ちで詩織は頭を下げる。
「こちらこそ、よろしくね」
「座りなさい。お昼は食べてきたのか?」
 母親は穏やかな笑顔で言い、父親に促されて二人はソファに座った。
「詩織の家で食べてきた。」
「お前、きちんとできたのか?」
「当たり前だろ」
「詩織ちゃん、何飲む?お茶でよかった?」
「ありがとうございます」
 賑やかな声が行き交う。
「ねぇ、詩織ちゃん。本当に樹なんかでいいの?」
「なんかってなんだ、なんかって」
 姉の言葉に詩織は少し照れくさそうに、それでもはっきりと答えた。
「私は、樹さんがいいんです。人を好きになることを教えてくれたのは樹さんだから」
 そっと樹を見ると、少しだけ顔が赤い。
「……樹、詩織ちゃん泣かせたら許さないから」
 姉は樹を睨む。
「……泣かせねぇよ」
 詩織の手を握ると樹は力強く言い切った。