君の声

 桜が散り、緑が映える季節がきた。
 二人で過ごす何度目かの春

 
「詩織、この段ボールどこ持っていく?」
「それはキッチンかな」
「おい、拓馬!お前そっち持て!」
「うわ、バカ!いきなり持ち上げんな!」
「その棚こっちな」
 賑やかな声が響く。よく晴れた日だった。
 樹と詩織が新しく借りた部屋。京平や拓馬、綾が手伝いに来て、引っ越しが進んでいた。朝早くから業者の手も借り、作業を進める。日が傾く頃には新しい家が完成した。
「お前らのおかげでなんとか終わったわ」
 京平と拓馬に缶コーヒーを差し出して樹が言った。
「……お前、物多すぎ」
「夕飯、奢りな」
 京平の言葉に樹は笑って頷いた。
「無事に終わったね」
 ベランダに立つ三人の後ろ姿を部屋の中から見つめながら綾が呟いた。
「綾たちのおかげだよ。ありがとう」
「どういたしまして」
 詩織が差し出したジュースを受け取って綾が笑う。
「あとは少しずつ揃えていかなきゃ」
「楽しみだね」
 詩織は笑顔で頷く。いつもより、ずっと幸せそうに笑う詩織を綾は見つめる。
「……なんだか、最近の詩織、ますますきれいになったね」
「え?どうしたの急に?」
「んー幸せオーラかなぁ。羨ましいったらない!」
 綾の言葉に詩織はちょっと恥ずかしそうに笑う。
「なんの話してるの?」
 中へ戻ってきた樹が二人に問いかけた。
「樹くんには内緒!」
「綾ちゃん、詩織のこといじめないでよ」
 綾の言葉に樹はくすくす笑う。
「夕飯食いに行こうって」
「そうだね、おなかすいちゃった」
 詩織が笑う。
「樹の奢りなー」
「綾、好きなもの言っとけ」
 京平と拓馬が言いながらすり抜けていく。二人に樹は苦笑いを浮かべる。
「お前ら……」
「とりあえず先降りてるぞ」
「ほら、綾。」
「あ、待ってよ!」
 ぱたぱたと二人を綾が追いかけるように出ていく。残された部屋で、樹と詩織は思わず顔を合わせる。
「……気を利かせてくれたんだな」
「だね」
 微笑み合うと、どちらからともなくそっと顔を近づける。触れるだけのキスを交わし、二人は手を繋いで部屋を出る。
「何奢らされるんだろ……」
「私も出すよ」
「それはダメ。」
「なんで」
「男としてそれはさせられない」
 他愛もない話をしながら階段を降りる。
「意味分かんない」
「分かんなくていいから。言うこと聞いてて」
「はいはい。」
 くすくす笑う詩織に樹もつられて笑う。
「樹ーー」
 京平から声がかかる。気づけば一階まで降りてきていた。
「寿司だ、寿司行くぞー」
「近いから歩いて行こうぜ」
「……俺らの意見は聞かねぇの?」
「当たり前だ」
 振り返って言う二人の顔は逆光でよく見えない。それでも祝福してくれている、そんな気がした。
「詩織、行こ!」
 綾が詩織の手を取り、樹は京平と拓馬に囲まれる。
 ふと、高校の記憶が樹の頭をよぎる。
(まぁ、いいか)
 樹はふっと笑うと、五人で肩を並べて歩いて行った。