君の声

 メールを確認し、部署のメンバーと今後の打ち合わせを済ませる。気づけば午前中はあっという間に過ぎていた。
「そろそろ、か」
 時計を確認した樹が呟いた、その時だった。
「先輩!!!!!!!」
 勢いよくドアが開く。
「……うるせぇ」
「やっと帰ってきた!!」
 広瀬は一直線に駆け寄ると、そのまま勢いよく樹に抱きついた。
「うわっ、おい」
「会いたかったっす!」
「……お前な」
 呆れたように言いながらも、樹は笑って広瀬の背中を軽く叩く。
「昼、行くか」
「はい!!」
 二人は馴染みの定食屋に向かう。
「あら、佐野ちゃん。久しぶりね」
「おばちゃん、久しぶり」
「アメリカ帰りでまたかっこよくなっちゃって」
 おばちゃんの言葉に樹は笑顔を返す。
「ゆっくりしていってね」
 注文を済ませるとおばちゃんはそう言って厨房へ戻っていった。
「相変わらずだなぁ」
「先輩、向こうどうでした?」
「英語しゃべれるようになりました?」
 広瀬が矢継ぎ早に樹に問いかける。
「一個ずつ聞け。」
 呆れる樹に広瀬は「すみません、つい」なんて謝る。それから樹は広瀬の質問に答えながら、アメリカでの話を聞かせる。その時、樹のスマートフォンが鳴った。
「彼女ですか?」
「うるせぇよ」
 詩織からだった。
『今からお昼休み。樹は?お昼食べた?』
『お疲れ。俺も昼休憩中』
「おい、広瀬ちょっと。」
「え?なんですか?」
 返事を聞く前に、樹はスマートフォンを構えてシャッターを切った。
「ちょ、先輩!」
「昼食ってる証拠」
 撮った写真をそのまま詩織へ送信すると、すぐに既読がつく。
「めっちゃ喜んでるわ」
 樹はスマートフォンを見ながら笑い、広瀬は少し不貞腐れたように言った。
「それはどーも!」
 
「また来てね、佐野ちゃん!」
「今度連れて来たい人いるから、連れてくるわ」
「あら!」
 食事を終え、会計時におばちゃんとそんな会話を交わして店を出た。
「さっきから気になってるんですけど」
「なんだ?」
「まじで彼女ですか?」
 広瀬の問いに樹は少し間を置いて答えた。
「そう。」
「うわー嘘だー」
「……どういう意味だよ」
「白石さんは!?あんなに好きだったじゃないですか!」
「……まぁ、な」
「待っててくれとは言えない、とかなんとか格好いいこと言っておいて!!」
「……」
「それなのに!アメリカ行ったら彼女作って帰ってきて!」
「は?」
「先輩がそんな人だったとは思いませんでした!」
「失礼だな。好きだったから今、彼女なんだろうが」
「そうですよ!好きだったから、かの、じょ……?」
 広瀬の勢いが少しずつなくなっていく。
「俺はずっと一人だけだけど?」
「…………………………え?」
 広瀬は数秒固まった。じとりと樹は広瀬を見る。その表情からは心外だな、なんて言葉が聞こえてきそうだ。
「え、ちょっと待ってください。……まさか、白石さん?」
「お前はまず、人の話を聞けよ。」
「嘘だ―――――!!!!」
 昼間のオフィスに広瀬の叫び声が響き渡った。