君の声

 席に座った樹はポケットからスマートフォンを取り出す。そこには一通、詩織からのメッセージが届いていた。
『私も、樹くんに負けないぐらい仕事頑張るから。』
「戻ってんじゃん」
 思わず笑みが零れる。それでも心が少し擽ったい。
『また、一緒に仕事したら驚くくらいにはなってみせる』
 詩織らしい言葉に樹も思わず力が入る。
『楽しみにしてる。』
 それだけ返して機内モードに切り替えた。代わりに手帳からそっと写真を取り出す。
 まさか、思い出す日が来るなんて思わなかった。佐野さん、としてじゃなく、樹、として詩織に向き合える日が来るなんて思わなかった。離れる寂しさがないとは言わない。けれど、もう手放すつもりはなかった。
 離陸の案内が流れ、樹は手帳をバッグに戻す。
 大きな音を立て、ゆっくり動き始めた機内で樹は詩織の温もりを思い出していた。




 半年後。
 桜の花びらが舞う空港に、樹は降り立った。スーツケースを引き、到着ロビーを抜け、外に出る。
「よう」
「悪いな」
 待っていた京平に声をかけ、彼の愛車に乗りこむとゆっくりと走り出した。