君の声

 ◇

「次、どこ行く?」
 ショップから出た綾は詩織に尋ねる。ランチを終えた二人はショッピングを楽しんでいた。その時、綾のスマートフォンに通知が入った。
「ちょっとごめん」
「なになに、例の彼?」
 からかう詩織に綾は曖昧に笑うとスマートフォンを確認する。その瞬間、綾の表情が変わった。
「……詩織、今から空港行くよ!」
「え?空港?」
「樹くん、今日アメリカに行くって……!」
「樹、くん……?」
 綾が誰のことを言っているのか、詩織には分からなかった。
「佐野樹!」
 焦った綾の声が響く。その名前を聞いて、詩織は目を見開く。
「なんで綾が、佐野さんのこと……」
「そんなこといいから!」
 状況が理解できないまま詩織は綾に手を引かれ、大通りに出た。
「ちょっと、綾!」
「……私はもう、何も伝え合わないまま離れてほしくない!」
 綾の上げた手にタクシーが止まる。綾は空いたドアに詩織を押し込むように乗せ、運転手に行き先を告げると、車が走り出す。
「ねぇ綾。どうしたの?」
 詩織は綾に尋ねる。
「なんで、綾が佐野さんのこと知ってるの?『樹くん』ってどういうこと?」
 綾は少しだけ目を閉じる。
「樹くんは……佐野樹は、高校の同級生なの」
「……え?」
「私も、樹くんも、詩織も」
 詩織は目を見開く。
「高校の、同級生……?」
「うん。でも今はそれだけしか言えない」
 綾の言葉に詩織は黙りこむ。少し間を置いて呟いた。
「でも、なんで空港?アメリカって?」
「樹くん、海外赴任が決まってアメリカに行くんだって。」
 詩織は目を瞬かせた。
 昨日、一緒にプラネタリウムを見に行った樹は海外に行くなんて何も言わなかった。いつものように「また」と言って別れた……はずなのに。
「今日のお昼の便で日本を発つって。今空港だって」
「……そんなこと、昨日何も言ってなかった」
 詩織の声が震える。綾は詩織の手を握って言った。
「好きなんだよね、樹くんが」
「え……」
 綾の言葉が、引っかかった。
「あの時と、同じこと言ってる」
 綾が小さく笑う。
「……今度こそ、ちゃんと伝えなきゃ」
 綾は詩織をまっすぐ見つめた。
「だからお願い、今は空港へ行こう」
 詩織は混乱しながらも小さく頷いた。