君の声

『次の土曜日、空いてますか?』
 詩織からそんな連絡が届いたのは休暇期間に入り、大きな荷物の発送を終えた直後だった。
『空いてるよ。』
『よかったら一緒にでかけませんか?』
 そんなメッセージとともに送られてきたのはプラネタリウムのペアチケットの写真だった。
『頂いたものですが、一緒にどうかなって』
「……それ絶対、デートに誘うためのやつだろ」
 呆れて呟く。
 人のことには敏感なのに、対象が自分になると鈍感になる。昔からそうだった。きっとこのチケットを渡した相手の気持ちにも気づいていない。少しだけ相手が気の毒になると同時に詩織が誰かに想いを寄せられている。その事実が少しだけ嬉しくて、少しだけ胸の奥が痛んだ。
 ……本当ならこの誘いに応えるべきじゃない。
 日本を離れる俺が、これ以上彼女と時間を過ごすべきじゃないことくらい分かっている。
 だけど——
『いいね。ぜひ』
 気づけば、もう返事を送っていた。
 
 夜。樹はスマートフォンを操作して電話を掛けた。コールを待たずに電話が繋がる。
『はい。』
 京平だった。電話の向こう側が少し騒がしい。
「今大丈夫か?」
『おう。どうした?』
「車、日曜の朝でいいか?」
『土曜じゃなくていいのか?』
「乗る予定ができた」
『……詩織ちゃんか』
 京平の言葉に樹は小さく笑う。友人にはお見通しのようだ。
「まぁ、そんなとこ」
『俺はいつでもかまわない。思うように過ごしてくればいい』
「助かる」
 それだけ言って樹は電話を切った。ベランダに出て夜風に当たりながらスマートフォンを操作する。開いたのは詩織とのトーク画面。今日の昼間、土曜日の約束をしたやりとりで終わっている。ゆっくり下へスライドしてやりとりを眺める。何気ないやりとりだった。それでも詩織の顔が浮かぶ。樹は画面を閉じて、夜空を見上げて部屋の中へ戻って行った。