君の声

「先輩、この案件なんですけど」
「あぁ、それはここの調整が出来ればあとは大丈夫だ」
「了解です」
 樹は広瀬のサポートに回りながら、アメリカ支社立ち上げの会議にも参加する。思ったより目まぐるしく日々は過ぎていった。着実に準備の進む中で、樹は期待が生まれているのも感じていた。
「先輩、準備進んでますか?」
 昼休み。ランチに入った定食屋で広瀬が聞いてきた。
「順調にな。」
 樹は味噌汁に手をつけながら答える。
「先輩の家、どうするんですか?」
「一年くらいだから借りっぱなしにする」
 お互い箸を進めながら会話する。
「お袋が風通しに行くって張り切ってる。」
「車は売るんですか?」
「いや、友達に預ける」
「えー俺乗りたかったなぁ。先輩の車」
「お前には預けないから安心しろ。」
「ひどいなぁ。」
 広瀬はそう言って生姜焼きを口に放り込んだ。
「お前はもう不安です、って感じじゃなさそうだな」
 箸を止めて樹が広瀬を見た。広瀬は目を瞬かせて少し困ったように笑った。
「いや、まだ不安はありますよ。ないわけないじゃないですか」
 その目が僅かに伏せられる。樹は黙って耳を傾ける。
「いくら先輩がいない間の繋ぎって言ってもです。」
 少し間を置いて広瀬は勢いよく顔を上げた。
「でも、それじゃ先輩、安心してアメリカ行けないでしょ。」
 広瀬の言葉に今度は樹が目を瞬かせた。ふっと笑って言う。
「……何偉そうなこと言ってんだよ」
「先輩のせいです」
「うるせぇ」
 二人は笑い合う。それ以上言葉はなくそれぞれ湯気のたつ昼食へと戻っていった。