お盆休みが明けると、引き継ぎも少しずつ終わりを迎えていた。
得意先への挨拶回りもほとんど済ませ、樹はある人物に連絡を取った。
その日の夜。待ち合わせに指定されたのは、駅から少し離れた和食店だった。店内へ足を踏み入れると、柔らかな照明が和の空間を照らしている。店員に名前を告げると、案内されたのは奥の個室だった。障子を開ける。
「お、久しぶりだな」
そこにいたのは黒塚だった。
「お久しぶりです。水族館イベントでは大変お世話になりました。」
「よせよ。評判もよかったし、うちも助かった」
樹は向かいの席に腰を下ろす。ほどなく料理が運ばれ、手酌で注ごうとした黒塚のグラスへ、樹は黙ってビールを注いだ。
「悪いな」
「いえ」
軽くグラスを合わせる。
「最近も忙しいのか?」
「ありがたいことに忙しくさせてもらってます」
「いいことだ。」
黒塚はそう言って笑うとグラスを傾けた。
仕事のこと、最近の出来事、これからのこと——話題は尽きなかった。しばらく経った頃、樹にビールを注ぎながら黒塚が言った。
「そういえば、白石とはどうなんだ?」
突然出た詩織の名前に樹は思わずむせる。
「……なんですか急に。」
「いや、いい感じだって聞いたけど」
黒塚はいたずらっぽく笑った。
「どうもこうもないですよ」
樹は苦笑いを浮かべた。
「でも好きなんだろ?」
黒塚は笑みを浮かべたまま樹を見つめる。樹は小さく息をついて答えた。
「……実は俺、海外へ行くんです。」
樹の返答に黒塚の動きが止まる。
「そうか……」
一拍置いて、黒塚は静かグラスに口を付ける。
「わざわざ話したいことがあるから時間をくれ、なんて何事かと思ったら海外か」
「はい。」
「……白石は知っているのか?」
樹は首を横に振る。
「言ってません。」
少し間を置いて樹は続ける。
「言うべきでもない、と思ってます。」
寂しそうに笑う樹に黒塚は何も言わずビール瓶を差し出す。
「おめでとう、栄転だな」
笑顔でそれだけを告げた。
得意先への挨拶回りもほとんど済ませ、樹はある人物に連絡を取った。
その日の夜。待ち合わせに指定されたのは、駅から少し離れた和食店だった。店内へ足を踏み入れると、柔らかな照明が和の空間を照らしている。店員に名前を告げると、案内されたのは奥の個室だった。障子を開ける。
「お、久しぶりだな」
そこにいたのは黒塚だった。
「お久しぶりです。水族館イベントでは大変お世話になりました。」
「よせよ。評判もよかったし、うちも助かった」
樹は向かいの席に腰を下ろす。ほどなく料理が運ばれ、手酌で注ごうとした黒塚のグラスへ、樹は黙ってビールを注いだ。
「悪いな」
「いえ」
軽くグラスを合わせる。
「最近も忙しいのか?」
「ありがたいことに忙しくさせてもらってます」
「いいことだ。」
黒塚はそう言って笑うとグラスを傾けた。
仕事のこと、最近の出来事、これからのこと——話題は尽きなかった。しばらく経った頃、樹にビールを注ぎながら黒塚が言った。
「そういえば、白石とはどうなんだ?」
突然出た詩織の名前に樹は思わずむせる。
「……なんですか急に。」
「いや、いい感じだって聞いたけど」
黒塚はいたずらっぽく笑った。
「どうもこうもないですよ」
樹は苦笑いを浮かべた。
「でも好きなんだろ?」
黒塚は笑みを浮かべたまま樹を見つめる。樹は小さく息をついて答えた。
「……実は俺、海外へ行くんです。」
樹の返答に黒塚の動きが止まる。
「そうか……」
一拍置いて、黒塚は静かグラスに口を付ける。
「わざわざ話したいことがあるから時間をくれ、なんて何事かと思ったら海外か」
「はい。」
「……白石は知っているのか?」
樹は首を横に振る。
「言ってません。」
少し間を置いて樹は続ける。
「言うべきでもない、と思ってます。」
寂しそうに笑う樹に黒塚は何も言わずビール瓶を差し出す。
「おめでとう、栄転だな」
笑顔でそれだけを告げた。
