2日後。樹は仕事終わり、馴染みの居酒屋の暖簾を潜った。イベントの後片付けも終わり、京平と拓馬に打ち上げという名目で飲みに誘われていた。店に入れば、顔なじみの店員が奥の個室へと樹を案内する。
「おー主役がきた」
「お疲れ」
個室の襖を開ければ京平と拓馬が出迎えた。樹もネクタイを緩めながら席に着く。注文を済ませ運ばれてきたビールを手に京平が声をかけた。
「樹、お疲れ!」
「お前ら、理由つけて飲みたいだけだろ」
笑いながら樹もグラスを合わせる。
「まぁそう言うなって。どう?初のチーフプロデューサー」
拓馬が笑って問いかけた。樹はグラスに口をつけながら少し考える。
「……達成感やばい」
樹の表情は穏やかだった。
「だろうな。顔見りゃわかる。」
「こっちの業界での話題も凄かったぞ」
「ナレーションがよかったって評判だったけど、誰に頼んだ?」
拓馬の声に樹は間を置いて答えた。
「……詩織。」
「え?まじで?」
「いろいろあって、俺の独断」
驚きで手の止まった二人に樹は笑いながらグラスに口をつけた。それからイベントの裏話やSNSや広告業界での話題性などで盛り上がった。樹はグラスを置き、運ばれてきた唐揚げを摘まみながら言った。
「あ、そう言えば俺。転勤になる」
「栄転か?」
「どこに?」
「海外。」
「「は??」」
二人の声が重なった。京平はジョッキを持ったまま固まり、拓馬は伸ばした箸が止まる。樹は気にも留めず唐揚げにレモンをかけている。
「ちょっと待て!」
「呑気にレモンかけてんじゃねぇよ!」
京平が慌てて樹の手を掴む。
「うまいじゃん。唐揚げにレモン」
「それはそうだけど、そういうことじゃねぇ!」
「なんだよ」と樹は笑う。おしぼりで手を拭いてから話し始めた。
「社長が今回のイベントの成功を評価してくれて。海外支店の立ち上げメンバーにって声かけてくれたんだ。」
樹はグラスを見つめながら言った。グラスの中で小さな泡が消えていく。
「最初は俺が海外?って驚いたんだけどさ。まぁ、栄転ってやつ?こんなチャンス滅多にないし、やってみてぇって思ってさ」
顔を上げた樹はそう言って笑った。
「……お前、本当にそれだけか?」
黙って聞いていた京平が低い声で問う。京平の言葉に樹は一瞬、視線を外した。
「……それだけだよ」
笑顔を浮かべて言うと再びグラスに口を付ける。一口飲んで、グラスを置くと小さく零した。
「……祝ってよ」
外された視線の奥で樹の声は少しだけ震えていた。
「そりゃ、めでたいことだし、すごいとは思うけどな」
「詩織ちゃんはこのこと?」
拓馬の問いに、樹は小さく首を横に振った。
「……言ってない。話すつもりもない」
「樹……」
「だってあいつは俺を忘れてる。」
浮かんだのは詩織の笑顔だった。
「俺がいなくても……あいつは大丈夫。」
「樹はそれでいいの?」
拓馬が問いかける。樹は曖昧に笑う。さらに京平が言った。
「逃げるだけじゃないか?」
「……もう決めたから」
樹は少し寂しそうに笑った。その笑顔は、どこか諦めたようにも見えた。拓馬と京平はそれ以上、何も言わなかった。言えなかった、のほうがきっと正しい。
「——いつ、発つんだ?」
「おー主役がきた」
「お疲れ」
個室の襖を開ければ京平と拓馬が出迎えた。樹もネクタイを緩めながら席に着く。注文を済ませ運ばれてきたビールを手に京平が声をかけた。
「樹、お疲れ!」
「お前ら、理由つけて飲みたいだけだろ」
笑いながら樹もグラスを合わせる。
「まぁそう言うなって。どう?初のチーフプロデューサー」
拓馬が笑って問いかけた。樹はグラスに口をつけながら少し考える。
「……達成感やばい」
樹の表情は穏やかだった。
「だろうな。顔見りゃわかる。」
「こっちの業界での話題も凄かったぞ」
「ナレーションがよかったって評判だったけど、誰に頼んだ?」
拓馬の声に樹は間を置いて答えた。
「……詩織。」
「え?まじで?」
「いろいろあって、俺の独断」
驚きで手の止まった二人に樹は笑いながらグラスに口をつけた。それからイベントの裏話やSNSや広告業界での話題性などで盛り上がった。樹はグラスを置き、運ばれてきた唐揚げを摘まみながら言った。
「あ、そう言えば俺。転勤になる」
「栄転か?」
「どこに?」
「海外。」
「「は??」」
二人の声が重なった。京平はジョッキを持ったまま固まり、拓馬は伸ばした箸が止まる。樹は気にも留めず唐揚げにレモンをかけている。
「ちょっと待て!」
「呑気にレモンかけてんじゃねぇよ!」
京平が慌てて樹の手を掴む。
「うまいじゃん。唐揚げにレモン」
「それはそうだけど、そういうことじゃねぇ!」
「なんだよ」と樹は笑う。おしぼりで手を拭いてから話し始めた。
「社長が今回のイベントの成功を評価してくれて。海外支店の立ち上げメンバーにって声かけてくれたんだ。」
樹はグラスを見つめながら言った。グラスの中で小さな泡が消えていく。
「最初は俺が海外?って驚いたんだけどさ。まぁ、栄転ってやつ?こんなチャンス滅多にないし、やってみてぇって思ってさ」
顔を上げた樹はそう言って笑った。
「……お前、本当にそれだけか?」
黙って聞いていた京平が低い声で問う。京平の言葉に樹は一瞬、視線を外した。
「……それだけだよ」
笑顔を浮かべて言うと再びグラスに口を付ける。一口飲んで、グラスを置くと小さく零した。
「……祝ってよ」
外された視線の奥で樹の声は少しだけ震えていた。
「そりゃ、めでたいことだし、すごいとは思うけどな」
「詩織ちゃんはこのこと?」
拓馬の問いに、樹は小さく首を横に振った。
「……言ってない。話すつもりもない」
「樹……」
「だってあいつは俺を忘れてる。」
浮かんだのは詩織の笑顔だった。
「俺がいなくても……あいつは大丈夫。」
「樹はそれでいいの?」
拓馬が問いかける。樹は曖昧に笑う。さらに京平が言った。
「逃げるだけじゃないか?」
「……もう決めたから」
樹は少し寂しそうに笑った。その笑顔は、どこか諦めたようにも見えた。拓馬と京平はそれ以上、何も言わなかった。言えなかった、のほうがきっと正しい。
「——いつ、発つんだ?」
