小さく呟く詩織を樹は横目に見る。
「……ちょっと時間あるけど、見て行く?」
樹の言葉に詩織は目を輝かせて頷いた。思わず樹にも笑みが溢れる。海沿いの駐車場に車を止め、二人で波打ち際を歩く。靴の下で砂が小さく鳴る。
「静かですね」
「朝だからな」
二人の間を波の音だけが流れる。ほんの一瞬、二人の手が触れた。どちらも離れることなく歩き続ける。
「そろそろ行こうか」
樹が腕時計に視線を落とす。
「はい」
車に戻ると水族館への道を静かに走り出した。
開館と同時に多くの来場者が館内へと足を踏み入れた。最終日ということもあり、朝から入り口には長い列ができている。
「すごいですね」
音響ブースへ向かう途中、詩織が小さく呟く。
「ああ。最後まで気は抜けないな」
樹は笑いながらそう答え、スタッフへ指示を出していく。
「入場列、このまま誘導お願いします!」
「イルカショー15分前です!」
「物販、在庫追加します!」
館内は朝から活気に満ちていた。
子どもの歓声が響き、恋人同士が水槽の前で足を止める。ナレーションが流れるたびに、静かに耳を傾ける人の姿があった。
樹は何度も館内を歩き、照明、映像、音響、人の流れを確認する。その視線の先には、いつも音響ブースで真剣な表情を浮かべる詩織がいた。目が合う。詩織は小さく微笑み、樹も笑い返した。
トラブルは一つも起きなかった。それが何より嬉しかった。
最後のドルフィンパフォーマンス。照明が落ち、館内が静寂に包まれる。詩織の優しい声がゆっくりと響き始めた。子どもたちが目を輝かせ、大人たちは静かに見上げる。誰かが涙を拭う姿が目に入った。
——この景色を、見たかった。
樹は胸の奥でそっと呟く。
ショーが終わる。一拍遅れて、大きな拍手が館内を包み込んだ。その音はいつまでも鳴り止まなかった。
閉館後。
最後の来場者を見送り、自動ドアが静かに閉まる。さっきまで賑わっていた館内は、朝とは違う静けさに包まれていた。
「終わりましたね」
詩織がぽつりと言う。
「ああ」
それ以上、言葉は続かなかった。スタッフたちから自然と拍手が起こる。
「チーフ!お疲れさまでした!」
「白石さんもありがとうございました!」
「最高のイベントでした!」
笑顔が広がる。樹も詩織も「お疲れさまでした」と頭を下げた。
誰もが達成感に満ちた表情を浮かべている。その輪の中で笑いながらも、樹だけは静かに詩織へ目を向けた。
今日という一日は終わった。
そして——。
この時間も、もう終わろうとしていた。
「……ちょっと時間あるけど、見て行く?」
樹の言葉に詩織は目を輝かせて頷いた。思わず樹にも笑みが溢れる。海沿いの駐車場に車を止め、二人で波打ち際を歩く。靴の下で砂が小さく鳴る。
「静かですね」
「朝だからな」
二人の間を波の音だけが流れる。ほんの一瞬、二人の手が触れた。どちらも離れることなく歩き続ける。
「そろそろ行こうか」
樹が腕時計に視線を落とす。
「はい」
車に戻ると水族館への道を静かに走り出した。
開館と同時に多くの来場者が館内へと足を踏み入れた。最終日ということもあり、朝から入り口には長い列ができている。
「すごいですね」
音響ブースへ向かう途中、詩織が小さく呟く。
「ああ。最後まで気は抜けないな」
樹は笑いながらそう答え、スタッフへ指示を出していく。
「入場列、このまま誘導お願いします!」
「イルカショー15分前です!」
「物販、在庫追加します!」
館内は朝から活気に満ちていた。
子どもの歓声が響き、恋人同士が水槽の前で足を止める。ナレーションが流れるたびに、静かに耳を傾ける人の姿があった。
樹は何度も館内を歩き、照明、映像、音響、人の流れを確認する。その視線の先には、いつも音響ブースで真剣な表情を浮かべる詩織がいた。目が合う。詩織は小さく微笑み、樹も笑い返した。
トラブルは一つも起きなかった。それが何より嬉しかった。
最後のドルフィンパフォーマンス。照明が落ち、館内が静寂に包まれる。詩織の優しい声がゆっくりと響き始めた。子どもたちが目を輝かせ、大人たちは静かに見上げる。誰かが涙を拭う姿が目に入った。
——この景色を、見たかった。
樹は胸の奥でそっと呟く。
ショーが終わる。一拍遅れて、大きな拍手が館内を包み込んだ。その音はいつまでも鳴り止まなかった。
閉館後。
最後の来場者を見送り、自動ドアが静かに閉まる。さっきまで賑わっていた館内は、朝とは違う静けさに包まれていた。
「終わりましたね」
詩織がぽつりと言う。
「ああ」
それ以上、言葉は続かなかった。スタッフたちから自然と拍手が起こる。
「チーフ!お疲れさまでした!」
「白石さんもありがとうございました!」
「最高のイベントでした!」
笑顔が広がる。樹も詩織も「お疲れさまでした」と頭を下げた。
誰もが達成感に満ちた表情を浮かべている。その輪の中で笑いながらも、樹だけは静かに詩織へ目を向けた。
今日という一日は終わった。
そして——。
この時間も、もう終わろうとしていた。
