君の声


 世界は、思っているよりもずっとうるさい。

 完全な静寂なんて、この街のどこを探したって存在しない。
 都会の夜を削る自動車の排気音、遠くの換気扇が回る微かな低音、誰かのスマートフォンのバイブレーション。耳を澄ませば澄ますほど、世界は無数の『音』というノイズで満ちていく。

 それでも僕の耳は、どうしようもないほど静寂を、そして、あの『ノイズ』を求めている。

 安物のマイクが拾う、夕暮れの放課後の空気。
 窓の外を通る自転車のチェーンの音。
 そして、至近距離で僕の名前を呼んだ、彼女の少し震える息づかい。

 あの日、狭くて少し埃っぽいあの放送室で、僕たちは「ラジオごっこ」をしていた。
 あの時笑っていた彼女は今も音の中にいるのだろうか。

 世界で一番静かで、世界で一番騒がしかったあの放課後から、僕たちの周波数は、今も交わったままだろうか。