キスから始まる恋は甘くて苦い

 ここのところ蒼一は徒歩で登校することが増えた。
 時々自転車で来ることもあるけれど、歩きのときはバスで駅まで行っているようだ。
 部活後、急ぎ足でバス停へ向かう姿を何度か見かけた。
 急いでいるのもあると思うけれど、蒼一が自分と同じバスに乗らないようにしているようにも思えた。
 瞳は、こっそり同じバスに乗り込んだことがある。
 尾行するつもりじゃなかったと言っても誰も信じてはくれないだろう。
 
 こんなの、虚しいだけなのに。

 頭ではわかっていても、最近の蒼一を見ているとなんだか落ち着かなくなる。
 懸命なのにどこか満たされているような……やわらかい表情を見せるようになった。

 それは、あの子のせい?

 駅ビルの2階、メインストリートを曲がった突きあたりの店に蒼一は消えていった。
 そこは、一度だけ訪れたことのある喫茶店だった。
 あと数メートル手前でためらい、しばらく動けないでいた。

 どうしてあの店に……

 蒼が知るはずはないんだから、これはただの偶然。

 そう言い聞かせ、角から顔を出してそっと店の様子をうかがう。