キスから始まる恋は甘くて苦い

「おすすめのケーキは?」
「うーん……人気はシフォンケーキだけど、チーズケーキがおすすめかな」

 後ろから桂とほたるの会話が聞こえてくる。

「じゃあ、チーズケーキと紅茶で」
「オレ、コーラとピザトースト」
「かしこまりました」

 オーダーを取るのも板についてきたほたるを目で追う蒼一。
 ホール仕事とキッチンの補助。混み合う時間とそうでないとき、いずれも立ちっぱなしでよく働いている。

 何か、俺にできることはないのか?

 自問自答しても、結局のところ何もできないのが現状だ。

 俺は、カレシじゃないんだもんな……

 いくら近くにいても現実は他人のまま。
 例え彼氏になったとしても、家庭の事情にズカズカと踏み込む権利が与えられるわけでもないけれど。

 せめて、近くで見守っていたい。

 自己満足だとわかっていても、ほたるが嫌がらない限り身を引くつもりはない。
 見返りをまったく求めないと言えば嘘になるけれど……こんなに尽くしたいと思ったのは初めてだった。
 そんな風に思わせてくれることにむしろ感謝している。

 俺は今まで、人助けをしてるんだと勘違いしてた。

 アイツにとっては、ただのお節介だったのかもしれないな……

 蒼一は薄く笑んでコーヒーカップを口元へ運んだ。
 まるで、昔を懐かしむように。