キスから始まる恋は甘くて苦い

 視線を感じた気がして、ガラス窓の向こうを見やる。

「いっらしゃいませ。わあ、来てくれたんだね」

 同時にほたるの声がして、蒼一の気はすぐにそちらへ逸れた。

「なんで来てんだよ……」

 そして、入店してきた彼を見てしかめ面をした。

「なんでって……客として来たんすけど?」

 省吾も負けじと不機嫌で、カウンター席の蒼一に無愛想な返答をした。稽古中彼から1本も取れなかったことを根に持っているのだろう。

「あの。辰巳先輩ですよね? はじめまして」

 省吾の後ろから、ショートカットが似合う目鼻立ちの整った女の子が現れた。

「私、ほたるの友達の樋口桂です」
「ああ、はじめまして」

 ハキハキと自己紹介をする桂に蒼一が笑いかける。

「渡とは部活帰りにたまたま会ったんで、私が誘ったんですよ」

 桂は隣で憮然(ぶぜん)としている省吾を指差し成り行きを説明した。

「お好きな席へどうぞ」

 ほたるに促された桂と省吾が蒼一の後ろにあるテーブル席に向かい合って座る。

「ほたるちゃんが来てから、お客さんが増えたなあ」

 目の前で初老のマスターが嬉しそうにこぼした。

「可愛い招き猫ですね」
「そうだね。君も大変だねえ」

 蒼一の冗談に朗らかに笑うマスター。