キスから始まる恋は甘くて苦い

 数日後、ほたるは駅ビルの中にある喫茶店で働くことになった。
 アンティークな趣で、目立つようなお店ではない。けれど、マスターの淹れるコーヒーが評判で常連客が多いらしい。
 ほたるがそこを仕事場に決めたのは、小さいころ家族で食べたケーキが美味しかったからというかなり甘い動機だった。
 週3~4日、放課後からの数時間。プラス休日に出勤することもあるようだ。
 蒼一はほたるがバイトの日は店に顔を出し、帰りは彼女を家まで送った。
 夜道が不安だし悪い虫がつかないか気が気じゃないし、蒼一の心配は尽きない。

「いらっしゃいませ」

 制服の上とはいえ、エプロン姿で出迎えられるとポーカーフェイスを保つのに苦労する。
 レアなポニーテール姿がいつもより大人びて見えるのも正直焦りを覚えさせる。

「今日もコーヒーですか?」
「ああ、お願い」

 すっかり、部活後にコーヒーを(たしな)むことが習慣になってしまった。
 さすがに毎回がっつり食べるのは散財になるので、大抵はここへ来る前に安値のおにぎりやパンをお腹に溜めてくる。