キスから始まる恋は甘くて苦い

「あ、ありがと……ございます」
「泣かせるつもりじゃないんだけどな」
 
 下を向いて泣き続ける姿に、嬉しかったのか困ってしまったのか判別がつかずに頭を掻く。

「ちょっと顔見せろよ」

 蒼一が鞄からタオルを取り出すと、ほたるは涙でぐしゃぐしゃになった顔をそろそろと持ち上げた。

「ひでえ顔」

 そう言いながら優しく顔を拭いてくれる蒼一。

「ごめんなさい……ありがとうございます」

 人前でこんなに泣いてしまったのは、家族以外では初めてかもしれない。
 恥ずかしくて仕方なく、すっかり暗くなり明かりの灯り始めた眼下の街並みへ視線を流す。

「なあ、そろそろ敬語使うのは止めろよ。俺のことも名前で呼んでいいから」

 そんなほたるへ手を伸ばし、両頬を手で包んで自分の方へ振り向かせる。
 蒼一は強引なところもあるけれど、いつも思いやりがあって……されるがまま見つめ合う。

「そんなこと、急に言われても困ります」
「キスまでした仲なのに?」
「……また意地悪ですか?」
 
 言葉通り困った顔をされても、泣かれるよりはずっと良かった。