キスから始まる恋は甘くて苦い

「雅也さん」

 駅とは反対方向へ向かうバスに揺られながら、ほたるが口を開いた。

「どうしたの?」

 雅也は吊り革を握り直して彼女を見返す。

「今日で、一緒にお見舞いに行くのはやめます」

 出し抜けな話だったけれど、雅也は驚きもせずに受け止めた。

「……そっか」

 ようやくその言葉を聞けて、雅也は肩の荷が下りたような心地になった。

「本当にひとりでも大丈夫?」
「はい。今まで、私のワガママに付き合わせてごめんなさい」
「そんなことはいいんだよ」

 そうは言っても、メガネの奥に安堵の色を見てほたるはホッと息をついた。

 やっぱり、負担になってたんだ。

 雅也にも迷惑をかけていたのかと思うと、これまでの自分がひどく情けなく感じた。

 それに気づかせてくれたのは、先輩なんだよね……

 ほたるは目を閉じて蒼一の顔を思い浮かべた。

「私、アルバイトをしようと思ってます。まだどこかは決まってないけど」

 まぶたを押し上げ、ほたるは雅也の目をまっすぐに見据えた。

「それはまた、急だね」

 予想外の言葉に、今度は驚きを隠さずにほたるを見返す。

「はい……私、やっと気づいたんです。悲しんでる時間があったら、家族の助けになるようなことをしなきゃって」

 つい昨日まで暗い顔をしていたほたる目に光のような輝きが見える。