キスから始まる恋は甘くて苦い

 あれから、家の前まで送ってくれたことまでは覚えている。
 それからの記憶はおぼろげで。メガネがないことに気づいたのは、朝起きて鏡台を見下ろしたときだった。

 先輩が持ったままだ……

 返してもらっていないことに気づかなかった自分に愕然とする。

 あれは、あのメガネは……お姉ちゃんの大事なものなのに。

 事故現場でまひるのそばに落ちていたというメガネ。
 目が悪いわけではないけれど、ファッション感覚で「雅也とおそろいにした」と毎日嬉しそうに掛けていた黒縁の伊達メガネ。
 自転車は破損したのに、あのメガネだけは無傷でほたるの元へ戻ってきた。
 それ以来、まひるのメガネはほたるの心のよりどころになっていた。
 姉の代わりに身に着け大切にすることは……贖罪(しょくざい)にも似ていた。

 それなのに、それなのに……

 昨夜は蒼一のことで頭がいっぱいになっていた。
 風のようにさらわれてしまったファーストキス。
 重ねられた唇のやわらかさの余韻がいつまでも消えなくて。
 キスしたり、抱きしめたりした理由とか。蒼一の言葉の意味をずっと考えていた。
 でも、答えは見つからなかった。