キスから始まる恋は甘くて苦い

 1時間はあっというまで、カラオケ店を出た蒼一が腕を伸ばした。

「あー、すっきりした」

 冷えた夜気がふたりを包む。

「夜はまだ寒いな」

 蒼一は腰に巻いていたグレーのカーディガンを外して腕を通した。

「寒くない?」

 温度差からかほたるの頬が紅色になっている。

「大丈夫です」

 そのせいか、いつもより顔色も気分も良さそうに見えた。

「ハラ減ったなあ。なんか食べてこうか」
「おごりはなしですよ」

 ほたるはうらめしそうに蒼一を見上げた。
 さっき、割り勘にすると聞かなくて会計で散々もめたのだ。結局「俺が誘ったから」と押し切って蒼一が支払いをした。
 それを気にしているのだろう。

「けっこう頑固なんだなあ」
「…………」

 蒼一の言葉に、ほたるは拗ねたように唇を結んだ。

 それに、結構子どもっぽい。

 次々と現れる彼女の一面を心の中で付け加える。

「何が食べたい?」

 良くない態度を取っても、蒼一は優しく包み込むような微笑で見つめてくる。

 この人には敵わない――

 観念したほたるは下を向いてポツリとつぶやいた。

「パスタがいいです」

 ほたるのリクエストで、夕食はチェーン店のイタリアンレストランに決めた。