キスから始まる恋は甘くて苦い

「誘拐犯の気分だな」
「えっ?」

 軽快な笑い声がして、ほたるは回想から呼び戻された。

「ちょっと強引だったかな……ごめん」

 これでも、反省はしている。
 雅也から引き離すことしか考えられなくて、彼女の用事を無視する形になってしまった。

「大丈夫です。決めたのは自分なので」

 メガネのフレームにふれる仕草に、言葉とは裏腹なことを知る。
 動揺を隠そうとしているときはいつもこうするからだ。
 そんなほたるの癖に、蒼一はとっくに気づいていた。

「俺を選んだからには、後悔させねえよ?」

 そう言って自信たっぷりに笑うから。

「先輩は迷いがないですね」

 ほたるは眩しそうに目を細め、可愛らしく微笑んだ。

 笑った――

 初めて見る笑顔と呼べるものに、蒼一の胸が何かあたたかいもので満たされる。

 マジで……可愛い。

 心臓の高鳴りを抑えるように、胸元のシャツを掴む。
 微笑みでこの破壊力なら、心から笑った顔はどんなに尊いか。
 それを引き出すためなら、なんだってしてもいいとさえ思ってしまう。

 惚れたら負けって、こういうことなのか……

 今ならなんでもできるような気がする。

「とりあえず、あのバスに乗る!」
「ええっ?」

 蒼一はほたるの手を取り、後ろから走ってきたバスを楽しそうに追いかけた。