キスから始まる恋は甘くて苦い

「こっち来んな。濡れんだろ」

 せっかく距離を置いたというのに、接触されて動揺が走る。頭は冷静になったけれど、体の方はまだ完全に冷えてはいなかった。

「ごめんなさい」
「だから。ほたるは何も悪くない」

 蒼一がもどかしげに答える。
 怒っているのは、ほたるに謝らせてしまう情けない自分自身なのに。

「……俺のこと、怖くなった?」

 後ろで、首を横に振る気配がする。

「嘘つくなよ」

 小刻みに震えているのがその証拠だろう。

「俺は怖いよ。またいつ暴走するかわかんねえし」

 自制心には自信があったのに、湧き上がる熱情の前ではそんなの何の役にも立たなかった。

「私は、一緒にいられなくなることの方が怖いです」

 ほたるが腰に手を回して後ろからぎゅっと抱きしめてきた。

「ほたる……」

 なんて可愛いことを言うんだろう。

 けれど、今まで見せたことのない野蛮な一面を知られてしまった。
 それでも、まだ“優しい先輩”だなんて誤解してるんだろうか。

「でも、俺は聖人じゃねえんだよ」

 ほたるの手を腰からはがし、振り向く。雨に濡れた彼女は、この期に及んで蒼一を惑わせようとした。

「バカ……風邪引くだろ」

 慌てて視線を逸らし逃げるように家の中へ入る。