一瞬、フロアの空気が固まった。
戸倉さんも毒気を抜かれた顔をしていた。
篠宮は構わず続ける。
「立ち話でする内容ではないので、部屋を取ります。今から三十分、いただけますか」
「……仕事が残っとる」
「では夕方。十七時半に、私が製造棟へ行きます」
「あんたが、こっちに来るのか」
「はい。話が終わる頃には定時を過ぎています。戸倉さんがそのまま帰れます」
戸倉さんは何か言いかけて、やめて、名刺をつかんで出ていった。
フロアに、少しずつ音が戻ってくる。
篠宮はこのみを見なかった。
何事もなかったように自分の席へ戻っていく。
その背中に、遅れて気づいた。
(……今、私、庇われた?)
いや、違う。
彼は言っていた。
宛先の話だと。
仕事の役割分担を、実行しただけのはずだ。
だけど、あのままだと、フロア中の前でこのみがリストラの名簿を作っていることにされていたはずだ。
結果的には、助けてもらった。
このみは、自席に戻りながら、フロアの端に座る篠宮をちらりとだけ見た。
夕方、千夏からメッセージが来た。
『聞いたよ! 修羅場だったんだって!?』
『もう回ってるの?』
『回ってる回ってる。てか篠宮さん、このみのこと庇ったんでしょ』
『庇ってない。窓口の交通整理』
『交通整理で製造棟まで出向く?』
返信の手が、少し止まった。
『仕事だからでしょ』
『ふーん?』
ふーん、に既読をつけて、スマホを伏せた。
