私と海と電話

五月。


 数学の授業。


「じゃあ、この問題を解いてみろ」


 先生が黒板に問題を書く。


 叶愛は問題を見た。


「……わかんない」


 隣の想を見る。


 想はもう解き終わっていた。


 叶愛はノートの端を小さく破り、文字を書く。


『教えて』


 それをそっと想の机へ滑らせた。


 想が紙を見る。
 

 そして裏に書いた。


『授業聞け』


『聞いてる』


『聞いてない』


『聞いてるもん』


 叶愛はむっとした。


 すると想が、もう一枚の紙を渡してきた。


『放課後教える』


 叶愛は笑った。


『約束ね』


 紙を返す。


 先生が黒板に向いている間。


 二人だけで、小さな紙を行ったり来たりさせる。


 そんなくだらないことが。


 叶愛には楽しかった。