開いた瞬間に足が止まった。
『え』
なんで、ここにいるの。
ここで、ずっと私を待っていたんだろうか。
「梨紗」
必死に平然を保とうとしてたけど…新くんにはどう映っていただろう。
頭が回らなくて、なかなか上手く話せない。
必死に動こうとするけど体も動かなくて、厳しかった。
「梨紗ともう一回ちゃんと話したくて…」
『難しいかも』
「もう一回だけ。あと一回だけでいいから…」
そう言って、私の手に触れて来た新くん。
半年前までは、大好きだった人なのに…今では怖い感情に変わっていた。
触れられた事に驚いて振り払った。
新くんに対して『好き』の感情で終わりたかったのに。
全てが崩れてしまった。
「彼氏でも出来たのか?」
急に高圧的になって、何も答えられなかった。
最後に別れた時に怒っていた新くんの表情だった。
「なぁ、あれだけ別れたくないって言ってたよな?」
『……』
「もしかして、あいつと付き合ってるのか?」
『……』
口調も目つきも私の知っている新くんではない。
けど、私たちがどんな関係になろうとも太陽のことを、あいつと呼ぶ筋合いはない。
私の事を悪く言うのは許せるけど、太陽のことを悪くいうのは許せなくて咄嗟に言い返していた。
『あいつって呼ばないで』
「お前…」
そういうと、新くんは私を壁に押し付けて来た。
『ねぇ、やめて』
「あいつに助けてって連絡すればいいだろ?」
『新くん、やめよ?』
そう冷静に言っても、新くんは私を壁に押し付ける力を緩めることはなかった。
ここのトイレは、角度的にどこからも見えない場所。
例え、声を出しても店内の方が賑やかだから気づかなそうだし…なるようにしかならなかった。
まぁまぁの力で…むしろ痛いくらいだった。
『逃げないから離して。…痛い』
「俺のところに戻って来るって約束したら離す」
『…それは』
そう言いかけた瞬間に新くんは私の唇を奪った。
もう嫌。
なんでこうなってしまうんだろう。
助けて欲しい。誰でもいいから、離してほしい。
精一杯、新くんの体を押しているけど…力が強くて動かなかった。
「俺と一緒に帰ろう」
私は太陽のところに帰りたい。
太陽のところに帰って、抱きしめられたい。
頭の中は太陽のことでいっぱいなのに、違う人とキスをして罪悪感で襲われて涙が止まらなかった。
「梨紗、幸せにする」
『新くんの気持ちだけ良ければいいの?』
「それは…」
『太陽と別れればいいの?』
「……」
『今の私には難しい。』
新くんって、こんな感じだった?
もっと優しい人だったよね?
私は、新くんの前から去って…先輩たちがいるテーブルに戻ったけど…このまま平然を保っていれる気がしなくて、戻って早々『体調が悪くなっちゃって…お先に帰ります』と言った。
「え、大丈夫?」
『貧血っぽくて、多分休めば大丈夫です』
私は、後輩にお金を渡してお店を後にした。
平然を保っていたけど…保とうとしていただけ。
お店を出て、駅に向かっていた途中で記憶を失った。
最後の記憶は、寒い中体を丸めて歩いていたのが最後だった。

