悪女の耳飾り

二人が店を出る頃には、街はすっかり夜の色に染まっていた。

繁華街のネオンが雨上がりのアスファルトに滲み、人混みのざわめきが絶え間なく耳に届く。

「……ごちそうさま。」

華は小さく頭を下げた。

照れ隠しなのか、どこかぶっきらぼうな礼だった。

「おう。」

クロは短く返事をすると、そのまま華をじっと見つめる。

「……じゃあ、私帰るから。またね、クロさん。」

華は踵を返し、駅へ向かおうと歩き出した。

その瞬間。

「待て。」

クロの大きな手が、華の手首をそっと掴む。

「……なに。」

振り返った華は、少しだけ眉をひそめた。

クロは一拍置いてから口を開く。

「今日、うち来ねぇか。」

「……は?」

思わず素っ頓狂な声が漏れる。

「明日、仕事休みなんだろ。」

「だから?」

「だったら、今日は一人で帰るな。」

華は呆れたようにため息をつく。

「……何言ってんの。」

「だからって、何でクロさんの家に行かなきゃなんないの。」

クロは答えない。

ただ、真っ直ぐ華を見つめている。

百九十七センチの長身。

顔と耳に無数のピアス。

腕一面を覆う刺青。

その強面な見た目とは裏腹に、瞳だけは妙に真剣だった。

華はその視線から逃げるように目を逸らし、長く息を吐く。

「……分かったよ。」

諦めたように肩を落とす。

「行けばいいんでしょ、行けば。」

「……ん。」

クロはわずかに目を細める。

それ以上は何も言わず、華の手首を離すと、「こっちだ」と顎で道を示した。

二人は駅とは反対の道へと歩き出した。