悪女の耳飾り

クロはカウンターの奥から黒いパーカーを引っ張り出すと、タンクトップの上から乱暴に頭を通した。

そのまま華の手首を掴む。

「行くぞ。」

店の照明を落とし、シャッターを閉めると、有無を言わせず繁華街へと歩き出した。

「ちょ、ちょっと、クロさん!」

華は腕を引っ張られながら抗議する。

「私、まだ『いいよ』なんて一言も言ってないんだけど?」

「……。」

クロは何も答えない。

ただ黙って華の手首を掴んだまま、馴染みのバルへ向かった。

店内は賑やかで、客の多くは派手な髪色やタトゥー、ピアスを身につけている。

クロが店へ入ると、カウンターの向こうにいたオーナーが軽く手を上げた。

「よぉ、クロ」

「あぁ」

クロも短く返し、いつもの席へ腰を下ろす。

華も渋々向かいの席に座った。

メニューを開きながら、クロが口を開く。

「何食う?」

「お酒」

「却下」

即答だった。

「舌ピ開けたばっかだ。アルコールは染みる。」

「……だったら、何でバルなんか連れてきたの。」

華は呆れたように頬杖をつく。

クロは答えず、代わりに一つ質問を投げた。

「お前、最近まともに飯食ったの、いつだ。」

その言葉に、華の動きが止まる。

「……。」

「気持ち悪いくらい痩せてるぞ。」

クロは華の頬や細くなった手首へ目を向ける。

「体重、何キロ減った。」

「……知らない。」

華は視線を逸らした。

「家に体重計ないし。」

クロは深く息を吐く。

「……そのままじゃ、舌噛みちぎる前に餓死するぞ。」

その言葉に、華は力が抜けたようにテーブルへ突っ伏した。

「……クロさんってさ」

小さく笑う。

「たまに、変なこと言うよね。」

クロは何も言い返さなかった。

その「変なこと」が、本気の心配だと伝わる日は、まだ少し先のことだった。