悪女の耳飾り

「別に、話を逸らしてるわけじゃないけど。」

華はそう言うと、財布から一万円札を取り出し、カウンターへ置いた。

「お釣りいらなーい。」

踵を返そうとした、その瞬間。

「待て。」

クロが華の手首を掴む。

「……何?」

振り返った華は、掴まれた手首とクロの顔を交互に見た。

クロはすぐには口を開かなかった。

何を言えばいいのか、自分でも分からなかった。

それでも、このまま帰らせてはいけない気がした。

「……何で死にてぇんだ。」

低い声が、静かな店内に落ちる。

華は一度だけ目を瞬かせると、小さく首を傾げた。

「……さぁ?」

「『さぁ』じゃねぇ。」

クロの眉間に皺が寄る。

「自分のことだろ。何で分かんねぇんだよ。」

「そんなこと言われても……。」

華は困ったように笑うだけだった。

その曖昧な態度が、クロの焦りを煽る。

「……チッ。」

舌打ちが漏れる。

「クロさん、離して。」

華は掴まれた手首を軽く引いた。

「もう帰りたいんだけど。」

クロはしばらく黙ったまま華を見つめ、それからぽつりと言った。

「……なぁ。」

「だから、何?」

「飯、食おうぜ。」

「……は?」

華はぽかんと目を丸くする。

「俺が奢る。」

クロは手首を離し、ぶっきらぼうに続けた。

「どうせ家帰るだけなんだろ。少し付き合え。」

「……やだよ。」

華は即答した。

「何でクロさんとご飯食べなきゃいけないの。」

「いいから来い。」

有無を言わせない口調だった。

その声には、いつもの軽さはなかった。