悪女の耳飾り

クロのその言葉に、華は一瞬だけ目を細めた。

けれど、すぐにいつもの飄々とした笑みに戻る。

「あー、そうかもね。」

肩をすくめながら、どこか他人事のように続けた。

「でも、その頃にはさ。私、きっと堕ちるところまで堕ちてると思うから。」

「……何だ、それ。」

「そのまんまの意味。」

華はくすりと笑う。

その笑みには、いつもの軽さしかない。

だからこそ、クロの胸はざわついた。

「堕ちるところまで堕ちたら――」

華は天井をぼんやり見つめながら、小さく呟く。

「舌、噛みちぎって死ぬから。」

「……は?」

クロの手が止まった。

ニードルの先が、わずかに揺れる。

冗談で言っているようには聞こえなかった。

あまりにも淡々と、今日の天気でも話すような口調だったからだ。

「……何、馬鹿なこと言ってんだ。」

クロは眉間に深い皺を寄せ、華を睨むように見つめた。

「別に。馬鹿なことじゃないよ。」

華はさらりと言ってのけると、施術台の上で軽く身を乗り出した。

「……ねぇ、もういいでしょ。早く開けて。」

急かすように、クロの膝を軽く叩く。

「……チッ。」

小さく舌打ちをすると、クロはニードルを手に取り、華の舌へと静かに当てた。

「……いくぞ。」

「……ん。」

華はぎゅっと目を閉じる。

そして無意識のように、クロの腕へしがみついた。

次の瞬間。

ぶつり、と肉を貫く鈍い感触。

遅れて、焼けつくような激痛が舌を駆け抜けた。

「っ……ぁ……!」

胃の奥がきゅっと痙攣し、クロの腕を掴む手に力がこもる。

生理的な涙が次々と溢れ、頬を伝って零れ落ちた。

痛い。

息が詰まるほど痛い。

それなのに。

胸の奥を埋めていた空洞へ、少しずつ何かが流れ込んでくるような感覚があった。

痛みだけが、自分がまだここにいると教えてくれる。

その感覚に、華はほんの少しだけ安堵してしまっていた。