悪女の耳飾り

「いいじゃん。ちゃんとお金払うんだし。」

華は肩をすくめると、慣れた足取りで奥の施術室へ入っていく。

施術台に腰を下ろし、無造作に並べられたニードルやピアスを指先でなぞった。

クロはそんな華を横目に見ながら、準備を始める。

「……お前、また失恋したのか。」

「うん。」

「今度はどんな奴だ。」

「会社によく来るウォーターサーバー業者のお兄さん。爽やかで、イケメンで、筋肉ムキムキで、高身長。」

華は一本一本指を折るように数え、少しだけ笑う。

「最高じゃない?」

「……で?」

クロは淡々と手袋をはめる。

華の笑みが、ふっと消えた。

「その人ね。同僚の女の子が好きなんだって。」

施術室に、ほんの少しだけ沈黙が落ちる。

クロは小さく息を吐いた。

「……またかよ。」

消毒液を染み込ませたガーゼを手に取りながら、呆れたように続ける。

「ほんっと、お前が好きになる奴って、ことごとく他に好きな女がいるよな。」

「……。」

「恋のキューピッドか、お前。」

華は眉をひそめ、不機嫌そうに口を尖らせた。

「……うるさい。」

少し間を置いて、小さく呟く。

「そんなの、なりたくてなってるわけじゃないんだけど。」

「いいから、早く開けてよ。」

華は急かすように言うと、何かを思い出したように目を細めた。

「あ、そうだ。ついでに舌ピも開けてくんない?」

「……はぁ?」

クロは思わず眉をひそめる。

「舌ピ? お前、ついこの前、切除したばっかだろ。」

「うん。まぁ、そうなんだけど。」

華は気にした様子もなく肩をすくめた。

「やっぱり舌ピがないと違和感なんだよね。なんか落ち着かないっていうか。」

そう言うと、華は何のためらいもなく、べっと舌を突き出した。

ピアスホールが塞がりかけた舌が、白い照明に照らされる。

クロはその姿を見つめたまま、小さく息をついた。

——また増やすのか。

失恋するたびに耳へ穴を開け、舌のピアスまで戻そうとする。

それはもう、おしゃれなんかじゃない。

痛みがなければ、自分を保てなくなっている証拠だった。

「……お前さ。」

クロは低く呟く。

「そのうち、開ける場所なくなるぞ。」