悪女の耳飾り

それから数日後、華はクロの経営する店を訪れていた。

「いらっしゃい。……なんだ、お前かよ」

「なんだお前かよって何……失礼だな」

拭いていたアクセサリーをケースへと戻したクロは、訪れた客が気を遣う必要のない相手だと分かると、躊躇なく煙草を咥えて火をつけた。

「ちょっと。客の前で堂々と煙草吸うんですか、ここのオーナーは」

「うるせぇ。お前はもう客じゃねぇよ」

「はぁ?」

華がジロリと睨みつけると、クロは煙を吐き出しながらじっと見つめ返してきた。

「……で、何の用だ」

「……うん。あのね」

華はカウンター越しに乗り出すようにして言った。

「ピアス、全部外してほしいの」

「……あ?」

「だーかーら! ピアス、全部外して!」

「うるせぇな、聞こえてんだよ」

クロは煩わしそうに片耳を指で塞ぐ。

「……理由は」

クロが尋ねると、華は口元にニヤリと笑みを浮かべた。

「ふふっ、知ってるくせに」

そう言い残し、華は慣れた足取りで奥の施術室へと向かっていく。

クロは小さく舌打ちをしたものの、煙草を灰皿に押し潰して消すと、華の後を追って奥へと向かった。その口元は、隠しきれていない笑みでどこか嬉しそうだった。

施術台に横たわると、見慣れた天井が視界に広がった。

「痛くしないでよね」

「……黙ってじっとしてろ」

手際よく準備を進めるクロの手が、私の耳元や舌に触れる。冷たい金属がひとつ、またひとつと外されていくたびに、過去の惨めな恋の記憶が削ぎ落とされていくような気がした。

穴が開いた数だけ、私は傷ついていた。誰かの特別になれない腹いせに世界を憎み、「悪女」を気取って自分を守っていた。

けれど、本当は心のどこかで気づいていたのかもしれない。
失恋するたびにこの店を訪れ、私に穴を開けるクロの手が、どれほど優しく、どれほど愛おしそうに私の肌に触れていたのかを。

「……ほら、全部外したぞ」

そう言って身を起こさせたクロの指が、穴だけが残された私の耳たぶを優しく撫でた。

「穴、塞がるまで時間かかりそうだな」

「まあね。でも、別に塞がらなくてもいいよ」

私はクロの首にそっと手を回し、その引き締まった身体を自分へと引き寄せた。

「この穴の数だけ……クロさんが私を好きでいてくれた証拠でしょ?」

呆れたように鼻で笑ったクロの唇が、今度は痛みのない、甘い温度で私の唇を塞ぐ。

傷跡だらけの私は、もう二度と「悪女」になんてなれない。

世界でたった一人、私を狂わせるほど愛してくれる男の腕の中で、私はただの幸せな女の子になったのだから。