煙草の匂いが、ふっと鼻腔をくすぐった。
ギシ、とソファーが沈む気配。クロが床から立ち上がり、背後から私を覗き込むように身を乗り出してきたのだと分かった。
「……お前さぁ」
掠れた低い声が、耳元に落ちてくる。
「あんだけ抱かれて、まだ疑ってんのかよ」
「……だって」
背を向けたまま呟く私の頬に、クロの少しざらついた指先が触れた。耳元からゆっくりと首筋を辿り、今度は私の顎をつまんで、強引にこちらを向かせる。
視線が交差する。
紫煙の向こう側にあるクロの瞳は、呆れと、隠しきれない熱を孕んで濁っていた。
「好きじゃねぇ女を、一晩中抱くほど暇じゃねぇよ」
「……っ」
クロの指先が、私の唇を押し開き、昨日開けたばかりの舌ピの金属に触れた。ひやりとした冷たさと、微かな痛みが走る。
「お前が店に来る度に、他の男の影が見える穴を俺の手で増やす……これがどれだけ屈辱的だったか、お前は知らねーだろ。」
指先が舌から離れ、私の頬を優しく撫でる。その手つきは、先ほどまでの荒々しい行為とは正反対で、怖いくらいに丁寧だった。
「好きじゃねぇなら、わざわざお前みたいな面倒くせぇ女の『傷跡』を、一から十まで見届けるかよ」
吐き捨てるような言葉の裏に隠された、あまりにも大きくて重い愛。華の胸の奥で、今まで感じたことのない熱が静かに渦を巻き始めた。
「……じゃあ、なんで……もっと早く言ってくれなかったの……」
掠れ声で訴えると、クロはふっと自嘲気味に目を細めた。
「言えるわけねぇだろ。お前、いつも『好きな男』の話ばっかしてたし。……俺はただの、便利で安全なピアス屋の兄ちゃんでいたかったんだよ。……嫌われるのが怖くてな」
そう言うと、クロは短くなった煙草を灰皿に押し付け、そのまま華の額に深くキスをした。
「…けど、もうやめた。お前が死にたくなるぐらい追い詰められてんなら、これからは…お前の耳も、身体も、全部俺が満足させてやる」
クロの手が、華の顎を優しく上に向かせる。
引き寄せられた唇に重ねられたのは、先ほどまでの荒々しいものとは違う、拍子抜けするほど穏やかで、愛おしむようなキスだった。
華の口内で、昨日開けたばかりの舌ピアスの金属が、冷たく、鈍く触れ合う。
(……あぁ、そうか)
塞がれた唇の隙間から、細い息が漏れる。
自分が欲しかったものは、誰かを傷つけるための「悪女」の称号でも、悲劇のヒロインを演じるための無数の穴でもなかった。
ただ、歪んでいようが何だろうが、誰かから真っ直ぐ向けられた愛の檻の中に閉じ込められることだったのかもしれない。
「……私も、好きかも」
キスが離れた一瞬の隙に、華は掠れた声で小さく囁いた。
クロは一瞬目を見開くと、満足そうに低く鼻で笑い、再び彼女の唇を奪った。
ギシ、とソファーが沈む気配。クロが床から立ち上がり、背後から私を覗き込むように身を乗り出してきたのだと分かった。
「……お前さぁ」
掠れた低い声が、耳元に落ちてくる。
「あんだけ抱かれて、まだ疑ってんのかよ」
「……だって」
背を向けたまま呟く私の頬に、クロの少しざらついた指先が触れた。耳元からゆっくりと首筋を辿り、今度は私の顎をつまんで、強引にこちらを向かせる。
視線が交差する。
紫煙の向こう側にあるクロの瞳は、呆れと、隠しきれない熱を孕んで濁っていた。
「好きじゃねぇ女を、一晩中抱くほど暇じゃねぇよ」
「……っ」
クロの指先が、私の唇を押し開き、昨日開けたばかりの舌ピの金属に触れた。ひやりとした冷たさと、微かな痛みが走る。
「お前が店に来る度に、他の男の影が見える穴を俺の手で増やす……これがどれだけ屈辱的だったか、お前は知らねーだろ。」
指先が舌から離れ、私の頬を優しく撫でる。その手つきは、先ほどまでの荒々しい行為とは正反対で、怖いくらいに丁寧だった。
「好きじゃねぇなら、わざわざお前みたいな面倒くせぇ女の『傷跡』を、一から十まで見届けるかよ」
吐き捨てるような言葉の裏に隠された、あまりにも大きくて重い愛。華の胸の奥で、今まで感じたことのない熱が静かに渦を巻き始めた。
「……じゃあ、なんで……もっと早く言ってくれなかったの……」
掠れ声で訴えると、クロはふっと自嘲気味に目を細めた。
「言えるわけねぇだろ。お前、いつも『好きな男』の話ばっかしてたし。……俺はただの、便利で安全なピアス屋の兄ちゃんでいたかったんだよ。……嫌われるのが怖くてな」
そう言うと、クロは短くなった煙草を灰皿に押し付け、そのまま華の額に深くキスをした。
「…けど、もうやめた。お前が死にたくなるぐらい追い詰められてんなら、これからは…お前の耳も、身体も、全部俺が満足させてやる」
クロの手が、華の顎を優しく上に向かせる。
引き寄せられた唇に重ねられたのは、先ほどまでの荒々しいものとは違う、拍子抜けするほど穏やかで、愛おしむようなキスだった。
華の口内で、昨日開けたばかりの舌ピアスの金属が、冷たく、鈍く触れ合う。
(……あぁ、そうか)
塞がれた唇の隙間から、細い息が漏れる。
自分が欲しかったものは、誰かを傷つけるための「悪女」の称号でも、悲劇のヒロインを演じるための無数の穴でもなかった。
ただ、歪んでいようが何だろうが、誰かから真っ直ぐ向けられた愛の檻の中に閉じ込められることだったのかもしれない。
「……私も、好きかも」
キスが離れた一瞬の隙に、華は掠れた声で小さく囁いた。
クロは一瞬目を見開くと、満足そうに低く鼻で笑い、再び彼女の唇を奪った。
