末山愛斗は、男性看護師として西東京病院で働いていた。
昼休みになり、外で食事をしていると、隣の席に座っていた一人の女性が、焼き鳥を口に運ぼうとした瞬間、突然体を崩して倒れた。
店員が慌てて声をかけようとしたのを、愛斗は手で制した。
「声はかけないでください。急に動かしたら危ないです」
愛斗はすぐに椅子を横に寄せ、女性を楽な姿勢で仰向けに寝かせた。手首と首の脈を確かめ、体の様子を見ると、片側の手足に麻痺があるのがわかった。脳卒中の可能性が高いと判断し、すぐに救急車を呼んだ。
救急車はそのまま西東京病院へ向かい、女性は緊急搬送された。名前は二階堂日奈子。そのまま一般病棟の同室に運ばれ、愛斗が点滴の処置をしていると、日奈子がゆっくりと目を覚ました。
日奈子はぼんやりと隣のベッドで食事をしている人を見て、自分も食べたそうにしていた。
「点滴で栄養は取れていますから、まだ食事はできませんよ」と愛斗が声をかけると、日奈子はゆっくりと口を開いた。
「嚥下のトレーニングは、早いほうがいいと聞きました。先生にお願いしてもらえますか?」
「まだ少し早い段階ですが…」
「いえ、早く始めるに越したことはないですから」
愛斗が話していると、女医の群地が回診に来た。
看護師の静が、食事のトレーニングの許可をもらいに相談すると、群地は険しい顔で言った。
「誤嚥したらどうするつもりだ。責任が取れるのか」
「そうならないように、細心の注意を払うのが私たちの仕事です」と、静は落ち着いて答えた。
看護師の歩と静はその後ナースステーションに戻り、日奈子の容態について話し合った。
そのとき、病院の会長である西千晶と社長の目暮が訪ねてきた。二階堂日奈子の名前を聞き、同室に入院していると知ると、すぐに個室へ移す手配をした。
院長の天乃も駆けつけ、千晶と共に日奈子に丁寧に謝罪した。
二人が話を終えて部屋を出ると、歩だけが残った。
日奈子はスマートフォンを取り出し、YouTubeを開こうとした。うまく操作できない様子だったので、歩が「何をお探しですか? 紙に書いていただければ、検索しますよ」と申し出ると、日奈子はペンで「サーカス」と書いた。
歩は「サーカスですね」と、木下サーカスの動画を探して再生した。すると日奈子は急に不機嫌そうな顔になり、首を振った。
「すみません、違いましたか?」と歩は慌てて謝り、部屋を出てナースステーションに戻った。
歩は看護部長の愛川橙子に、そのときのことを報告した。
「部長、『サーカス』と書いていたので木下サーカスを再生したら、違うと言って不機嫌になられました。サーカスって、他に何かありますか?」
「知らないわ。それって、動物のサーカスのことでしょう?」
愛斗が隣にいて、静かに口を挟んだ。
「違いますよ。歌手の『サーカス』のことです」
「歌手?」
「はい、コーラスグループの歌手です。昔は叶正子さん、叶高さん、叶央介さんの3人姉弟と、従姉の卯月節子さんの4人で活動していました。節子さんと央介さんが卒業して、今は高さんの娘のありささんと吉村勇一さんが加わった5人です。『ミスター・サマータイム』や『アメリカン・フィーリング』が有名ですよ」
橙子は驚いて愛斗を見た。
「えっ、愛斗くん、そんなに詳しいの?」
「はい、大好きなんです」
「そうなのね」
「うん、心から好きなんです」
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昼休みになり、外で食事をしていると、隣の席に座っていた一人の女性が、焼き鳥を口に運ぼうとした瞬間、突然体を崩して倒れた。
店員が慌てて声をかけようとしたのを、愛斗は手で制した。
「声はかけないでください。急に動かしたら危ないです」
愛斗はすぐに椅子を横に寄せ、女性を楽な姿勢で仰向けに寝かせた。手首と首の脈を確かめ、体の様子を見ると、片側の手足に麻痺があるのがわかった。脳卒中の可能性が高いと判断し、すぐに救急車を呼んだ。
救急車はそのまま西東京病院へ向かい、女性は緊急搬送された。名前は二階堂日奈子。そのまま一般病棟の同室に運ばれ、愛斗が点滴の処置をしていると、日奈子がゆっくりと目を覚ました。
日奈子はぼんやりと隣のベッドで食事をしている人を見て、自分も食べたそうにしていた。
「点滴で栄養は取れていますから、まだ食事はできませんよ」と愛斗が声をかけると、日奈子はゆっくりと口を開いた。
「嚥下のトレーニングは、早いほうがいいと聞きました。先生にお願いしてもらえますか?」
「まだ少し早い段階ですが…」
「いえ、早く始めるに越したことはないですから」
愛斗が話していると、女医の群地が回診に来た。
看護師の静が、食事のトレーニングの許可をもらいに相談すると、群地は険しい顔で言った。
「誤嚥したらどうするつもりだ。責任が取れるのか」
「そうならないように、細心の注意を払うのが私たちの仕事です」と、静は落ち着いて答えた。
看護師の歩と静はその後ナースステーションに戻り、日奈子の容態について話し合った。
そのとき、病院の会長である西千晶と社長の目暮が訪ねてきた。二階堂日奈子の名前を聞き、同室に入院していると知ると、すぐに個室へ移す手配をした。
院長の天乃も駆けつけ、千晶と共に日奈子に丁寧に謝罪した。
二人が話を終えて部屋を出ると、歩だけが残った。
日奈子はスマートフォンを取り出し、YouTubeを開こうとした。うまく操作できない様子だったので、歩が「何をお探しですか? 紙に書いていただければ、検索しますよ」と申し出ると、日奈子はペンで「サーカス」と書いた。
歩は「サーカスですね」と、木下サーカスの動画を探して再生した。すると日奈子は急に不機嫌そうな顔になり、首を振った。
「すみません、違いましたか?」と歩は慌てて謝り、部屋を出てナースステーションに戻った。
歩は看護部長の愛川橙子に、そのときのことを報告した。
「部長、『サーカス』と書いていたので木下サーカスを再生したら、違うと言って不機嫌になられました。サーカスって、他に何かありますか?」
「知らないわ。それって、動物のサーカスのことでしょう?」
愛斗が隣にいて、静かに口を挟んだ。
「違いますよ。歌手の『サーカス』のことです」
「歌手?」
「はい、コーラスグループの歌手です。昔は叶正子さん、叶高さん、叶央介さんの3人姉弟と、従姉の卯月節子さんの4人で活動していました。節子さんと央介さんが卒業して、今は高さんの娘のありささんと吉村勇一さんが加わった5人です。『ミスター・サマータイム』や『アメリカン・フィーリング』が有名ですよ」
橙子は驚いて愛斗を見た。
「えっ、愛斗くん、そんなに詳しいの?」
「はい、大好きなんです」
「そうなのね」
「うん、心から好きなんです」
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