そう言われて初めて、目の前で興奮気味に話す男が自分のグループのバンドをいくつも腕に付けていることに気付く。
その一つにはまだ碧葉がメジャーデビューしたばかりの頃、地方の小さい会館で行った時に限定で配布したももあった。
言葉は丁寧なのに、声だけが真っ直ぐだった。
その真っ直ぐさが、逆に現実を引き戻してくる。
ああ、そうか。
ここはまだ、ステージの外側なんだ。
碧葉は小さく息を吐く。
胸の奥に残っていた曖昧な揺れが、少しずつ形を失っていく。
「……ありがとうございます」
それだけを返すと、男はほっとしたように笑って、軽く頭を下げた。
「すみません、ほんとに。嬉しくて」
そう言って、また人混みの方へ戻っていく。
その背中が見えなくなるまで、碧葉はしばらくその場に立っていた。
雨は変わらず降り続いている。
