雨誰を穿つ


「――すみません!」

少し離れたところから、はっきりとした声が飛んできた。

碧葉は反射的に足を止める。

振り返ると、若い男がこちらへ駆け寄ってくるところだった。

息を切らしながら、雨の中で立ち止まる。

「あの……もしかして、Dahliaの碧葉さんですよね?」

一瞬、時間が止まったような気がした。

その名前が、自分のものとして発音されたことに、すぐには実感が追いつかない。

碧葉は何も言えずにいる。

不機嫌にさせてしまったと思ったのか、男は少しだけ慌てたように続けた。

「さっきのライブ、見てました。すごく……よかったです。あの、急にすみません、どうしても言いたくて」