雨誰を穿つ


その刹那。

『__今日の最後、すごい好きだった。』

声は、ごく近くで聞こえた気がした。

碧葉は思わず振り返る。

その一言が、不意に胸のどこかへ触れた。

いつか。

ずっと昔。

まだ小さなライブハウスで演奏していた頃。

客席はまばらで、照明も今よりずっと暗くて、それでも演奏が終わるたび、誰かがそんなふうに笑ってくれた記憶がある。
__今日の最後、すごい好きだった。

その声だけが、雨粒みたいに胸へ落ちてきた。

誰だっただろう。

思い出そうとして、やめる。

最近はそんなことばかりだった。

考え始めると、決まって頭の奥が鈍く痛む。

疲れているんだ。

それだけだ。

そう自分へ言い聞かせて、視線を上げる。

そこにいたのは、自分より少し年下に見える男女だった。

肩が触れそうな距離で歩きながら、女の子が照れくさそうに笑う。