喪失の夜に、あなたがいた

あの瞬間、
 自分が祖母と挨拶に行かなければ──
 明莉は倒れなかったかもしれない。

その思いが、
 楓の心を深くえぐった。

「楓」

静かな声が背後から聞こえた。

振り返ると、
 重森さくらが立っていた。

その顔には、
 深い心配と、
 それ以上の痛みが滲んでいた。

「……おばあ様……」

楓の声は震えていた。

さくらはゆっくりと楓の隣に立ち、
 処置室の扉を見つめた。

「パーティ―のことは心配しなくても片付けてきたわ。後日話します。
 あなたのせいではないわ。しっかりなさい。楓!」

その言葉は、優しくて、
 しかし楓には受け止められなかった。

「僕が……そばにいたのに……
 守れなかったんです……」

楓は唇を噛みしめた。

「明莉さんは……僕を信じて……
 僕の隣に立ってくれたのに……
 僕は……」

言葉が続かなかった。

胸の奥が、
 痛みで締め付けられる。

さくらは楓の肩にそっと手を置いた。

「楓。
 あなたはあの子を守ろうとした。
 それは誰よりもわかっているわ」

「でも……」

「でもじゃないの」

さくらの声は静かだったが、
 揺るぎない強さがあった。

「あなたは明莉さんを愛している。
 だから苦しいのよ」

楓は息を呑んだ。

“愛している”──
 その言葉を、
 誰かに言われたのは初めてだった。